2体の魔物
「お前が退治した魔物だが…… そいつの仲間だったんだよ」
陰陽師の男が白い猫を指さしながら言った。
「ん? その猫がどうした? 俺が斬ったのは化け猫とかじゃなかったぞ?」
「お前にはこの白猫の正体が……」
陰陽師の男が驚いたように言うので、翔太は首をひねり考える。
白い猫は、翔太の顔をじっと見つめながら、一歩、また一歩と歩み寄ってくる。
(あれ……?)
翔太は今更ながらこの状況に違和感を感じた。
白い魔物の姿が見当たらない。
そして目の前には白い猫……
(げ、幻覚を見せられているのか、俺は!?)
土地神の力を借りているとはいえ、ここは言わばアウェーの地。
稲荷山全域に張り巡られている結界からみると、自分は異端の存在。
白い魔物の妖気に当てられて幻覚を見せられていてもおかしくない。
(この猫は魔物本体か!)
翔太が気づいたときには時すでに遅し――
白い魔物はくわっと牙をむき、襲いかかる姿勢になっていた。
彼は身をのけぞらせて神器の扇で応戦しようとするが……
――ポヨン――
何か柔らかいものが後頭部に触れたかと思うと、次の瞬間には何者かに後ろから抱きつかれていた。
「ねえ、許してあげて! まだ小さい子供じゃん。よく分からないけど怒らないであげて!」
翔太を庇うように抱きついてきたのは胸が大きい方の女。身長が高いので彼女のふくよかな胸が翔太の後頭部をすっぽり覆うように密着している。
「わわわっ――!」
翔太は真っ赤な顔で、あたふたと手を暴れさせている。
「お、俺に触れるなー」
女を突き放そうと振り向きざまに手で突っぱねると、胸をむぎゅっと押してしまい更に赤面する翔太。
「あっ、大丈夫よ!」
「お、俺は大丈夫じゃないからぁー!」
ともあれ、胸の大きな女のおかげで白い魔物の殺気も感じられなくなり、最悪の事態は避けられたようだ。
「命拾いしたな、お前…… ところで大文字山の魔物の封印を解いて退治したのもお前なのか?」
陰陽師の男が聞いてきた。
「大文字山の魔物? そもそも魔物の封印を解くなんてことは俺の専門外だ。ただ、外に魔物が出てきたら退治してやるけどな! ……えっ!?」
魔物使いではなかった胸の大きくない方の女が、白い魔物をスポーツバックに戻している。その際に、バッグ中に隠れていたもう一体の魔物を目撃し、翔太は驚きの声を上げた。
体長30センチメートルほどの、黒光りしている赤い肌に戦国武将のような甲冑を身にまとっている鬼の姿の魔物。隠していても漏れ出てくる妖気に翔太は恐れおののいた。もし2体同時に攻撃を仕掛けられたら、結界内で力が半減している彼に勝ち目はなかったであろう。