陰陽師
神器の扇に込められた土地神の力により変身した翔太は、皆の注目を浴びていることを意識して、服装の乱れを正しつつ息を整える。
気を落ち着かせると周りの状況も見えてくる。翔太は通りがかりの観光客が唖然とした表情で立っているのに気が付く。
「あんたらここで何をしている? ここは危険なエリアだ! すぐに立ち去れ!」
魔物使いとの戦いに一般人を巻き込む訳にはいかない。
観光客は翔太の呼びかけに応じて、何度も振り返りながら去って行く。
翔太は過ぎ去る観光客に視線を向けながらも、足下から凄まじい勢いで妖気が迫ってくることを感じていた。白猫の姿に化けている魔物が先ほどから自分を睨んでいる。
(白い魔物は俺の首を狙っている! 下手に動くと殺される。俺はうっかり白い魔物の間合いに入ってしまったんだ。コイツが動かないのは魔物使いの女の合図を待っているのか?)
神器の扇を持つ手から汗がにじんでくるのを感じながら、翔太は魔物使いの女を見やる。すると、意外にも女は翔太ではなく華奢な男に視線を向けていた。
「俺は中学3年、修学旅行の班別自由行動中の豊田庸平、陰陽師だ! お前は何者だ」
華奢な男は豊田と名乗ってきた…… しかも陰陽師だと!?
陰陽師と言ったらヘンテコな呪文を唱えて魔物を使うアレか?
ウソ、マジ!?
それともこの豊田という男は……
「あんた中二病か? 中3なのに? ぷっ……!」
と、翔太は口元を押さえて笑いをこらえながら言った。たとえ相手が中二病というイタイ男だとしても、年上の相手に向かって失礼な態度はとってはいけない。彼はそういう純真な所もあるのだ。
しかし、豊田庸平はいたって真面目な表情で、魔物使いの女を指さし、
「いや、中二病はコイツだから」
と言った。
「えっ? 今それを言う? あ、私は坂本佳乃…… です。黒魔術師よ!」
魔物使いと思っていた女は、黒魔術師と名乗った。
だが、坂本という女が見得を切っても白い魔物は何も反応しない。
もしや自分はとんでもない勘違いをしていたのでは?
翔太は焦った。
と言うことは……
「……陰陽師って本当に? あんた本当に陰陽師なのか? 魔物が見えるの?」
「ああ、見えるが…… お前にも見えるのか?」
魔物の姿を視ることのできる人間との初めての出会いに、翔太は興奮した。