魔物召喚
神社の職員に魔法陣の落書きを注意され、平謝りしている2人の女。
その2人を遠巻きに見ながら、何食わぬ顔で通り過ぎようとする男が2人――
スポーツバッグを抱えた華奢な体つきの男と、小太りの男である。
「あーっ、豊田ー、何で素通りしようとしてるのよ!」
「吉岡君、あなた班長でしょ?」
女2人が怒られている現場から逃避しようとしていた男2人は案の定、見つかって責められている。
情けない連中だ。翔太はそう思ったが、詩織に構ってもらえないからと拗ねて白加美神社を抜け出し、挙げ句の果てにイチカに騙されて放浪している自分も相当情けない男だから人のことは言えない…… 今すぐにでも白加美神社へ戻って謝りたい気持ちになってくる。
しかし、目の前にいる魔物と魔物使いを放って帰るわけにはいかない。今の彼を動かしているのは、魔物許すまじという正義感である。
神社の職員によるお説教が終わり、残された修学旅行生4人はそのまま帰るのかと思いきや、魔物使いの女が、
「これ、消す前に少しだけいいかな?」
と、魔法陣を前にして呪文を唱え始めた。
「あの女、この状況で魔物の召喚をやろうというのか!? くそっ、あのまま変身しておけばよかったぜ!」
学ラン姿の翔太は扇子を胸の位置に構える。そして詠唱を始めた。
「我は桜木翔太なり 下賀美神社に奉る土地神の半身なり いまここに土地神の力を体現し 我に力を与えたまえ――」
扇子を真っ直ぐ頭上に掲げ、『パッ』と勢いよく扇を開く。すると、扇面から神々しいばかりの光が発せられ、同時に金粉のようなキラキラが少年の身体に降り注がれる。
「変身――――――!」
翔太はそう叫ぶと同時に、扇をくいっと回転させると、つむじ風が身体の周りに起こり、辺り一面が金色の光に包まれる――
光が収まると、彼は土地神と同じ黒装束姿に変身していた。
「よし、変身完了。何とか間に合ったか?」
見ると、魔物使いの女の呪文も佳境に入っていた。
魔法陣の上空3メートル付近に、妖気が集まり始める。
黒装束姿の翔太は神器の扇を手に、出て行くタイミングを見計らう。
やがて妖気が実体化し始めると、男のスポーツバックから白い魔物が飛び出してくる。それと同時に翔太は建物の陰から飛び出していき――
「漸――――!!」
神器の扇から吹き出る深紅の炎の剣で、魔物を真っ二つに切り裂くことに成功した。