魔法陣
階段状になった坂を上ると、小さな池がある熊鷹社に到着する。
池の畔で修学旅行生4人は休憩していた。
翔太は建物の陰からその様子を窺っている。
距離が離れているので詳しくは聞き取れないが、女2人が疲れたと言って駄々をこねているようで、男2人が困っている様子。
やがて、男2人で先に行くことになり…… 問題のスポーツバックは頼りなそうな方の男の手に渡る。
翔太は迷う。追っていた4人は二手に分かれてしまった。どちらを尾行すべきなのか。魔物使いの女とスポーツバックに隠された魔物のどちらが危険か…… 彼は土地神の半身として、たとえ異郷の地であろうとも正義を貫こうと決意する。
「まずは魔物使いの女だ。その後で魔物を始末しよう」
しかし、まだ女が本当に魔物使いなのかの確証を得られていない。しばらくは観察を続けることにする。
妖気が漂うスポーツバックを受け取った男は、小太りの男とともに山道をさらに登っていった。残された女2人は、自販機でジュースを買い、楽しそうにおしゃべりをしている。その様子を見ていると、翔太は自分の判断に対する自信が揺らいでくる。本当にあの女は魔物使いなのだろうか…… 今からでも男2人を追っていくべきかもしれない…… 翔太がせきたてられるように立ち上がったそのとき――
魔物使いの女が動いた。
女は木の枝を拾い、地面に直径3メートル程の円を描き始める。
続いて一回り小さな円。
その円の中に一筆書きの星の形。
外側の円と内側の円の間に、なにやら文字のような記号を書いている。
「あ、あれは魔法陣か!? あの女、やはり只者ではないぞ。魔法陣で魔物を召喚するつもりか、この神社の境内で?」
神社仏閣には必ずといっていいほど、結界が張られている。ここ伏見稲荷大社は稲荷山全域を神域としている。この強力な結界内で敢えて魔物を召喚するとは、かなり強力な術者ということになる。
これは土地神の力を借りて対抗するしかない。そう考えた翔太は、神器の扇を手に【変身】の術を発動しようと構えると……
「お前さんたちは何をしたはるんや? ここは神社の境内やぞ! どこん学校ん生徒や、言いよし!」
「えっ!? あっ、ご、ごめんなさい!」
神社の職員が地面の『落書き』に気付いて注意してきた。魔物使いの女はぺこぺこ頭を下げて謝っている。ただ見ていただけの仲間の女も一緒に謝っている。
翔太は変身を取りやめ、事の成り行きを観察することにした。