伏見稲荷大社にて
京都駅からJR奈良線に乗車して2駅目で伏見駅に到着する。
修学旅行生4人は、伏見稲荷大社へ向かって歩き出した。
その少し後ろを桜木翔太は尾行中である。
「うわーすごい、すごい! ねえ、ここで皆で写真撮りましょう」
胸の大きい方の女が騒いでいる。
彼らは千本鳥居の入口で写真を撮るようだ。
「ほら笑えよ、最弱ー」
小太りの男がカメラを構えた。
華奢な体つきの男は、女2人の肩を抱き寄せ、ニヤッと笑っている。
あの男はいかにも遊び人という感じの、翔太が苦手なタイプのようだ。
それにしても気になるのはスポーツバックを持った、胸が大きくない方の女だ。先ほどからやけに楽しそうにしている。あれではまるで…… 普通の女子ではないか!
「あの女…… ひっょとして魔物使いではないのか? 俺の勘違いだろうか?」
翔太は自身の推測に自信が持てなくなっていた。しかし、女の持つスポーツバックからは魔物からにじみ出る妖気が強烈に漂っている。
ふと、彼はこの感覚を以前にも感じていたような気がした。
「…………! 静岡駅で通過した新幹線だ! あの新幹線の中から漂ってきた妖気と同じだ! 奴らはあれに乗っていたのか!? ならば、これは運命的な再会と言っていいだろう。必ずや退治してくれる」
翔太は正義の味方気取りでそう独りごとをつぶやいた。
千本鳥居を抜け、奥社参拝所で彼らは写真をまた撮っている。
おもかる石を持ち上げてみたりして、楽しそうにはしゃぐ4人の修学旅行生。
それを影からじっと眺めている翔太。
「俺は正義のために頑張る。俺は正義のために……」
翔太は心の中で呪文のように繰り返し唱えている。
彼らが先に進んだのを見届けてから、少しだけ観光気分を味わうことにした。
おもかる石とは、石灯籠の中にある石で、願い事を心の中で唱えながら持ち上げたとき、予想よりも軽かったら願いが叶うという占いのようなものだ。
翔太は『あの魔物を退治する。絶対に退治してやる!』そう願いながら石を持ち上げてみると―― ずっしりとした重さを感じた。
彼は足早に4人の修学旅行生を追いかけた。大きな鳥居が無数に続く、アップダウンのある山道である。
「俺は土地神の半身だ。この地の神とは相性が悪いのかも知れない……」
彼はおもかる石の占いの結果をまだ気にしていた。