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「キ、キスって…… こ、こ、こ、ここでですか?」

 と、うわずった声で翔太が言うと、一華は小悪魔のような笑顔で、

「誰も見てへんから大丈夫よ。ほらっ……」

 と、まぶたを閉じた。


 ど、どうしてこうなったー!?


 翔太は心の中でそう叫び、改めて自分が置かれている状況について考えてみた。

 まず、目の前にいる一華は自分の1つ年上の女の子。詩織の従姉妹である。

 先程会ったばかりの女の子から『キスしよ』とか言われる事ってあるのだろうか。

 いや、それは現実に起きている……


 もし、この子とキスをしたら、これって浮気なんだろうか?

 そもそも俺は詩織の何なのだろう? 

 詩織は俺のことをどう思っているのだろう?

 俺は土地神と契約を交わした。それは詩織を守るためだった。

 でも、契約を交わした相手は神であって、詩織ではない。

 俺と詩織の関係って…… 無関係……?

 じゃ、じゃあ…… 俺はここでキスをしても…… いいの?

 いやいやいや、まてまてまて……

 好きでもない相手とキスをするって、どうなのよ……

 

 以上のような思考を頭の中で巡らせている翔太にしびれを切らした一華は、

「ねえ……、するの? しないの?」

 と、片目を開けて決断を促す。


「し、しま………


 ……


 ……


 ……


 ……せん!」


「はぁー!? 女の子がここまで積極的に誘っているのに乗らないのー? どんだけ意気地無しなのよ!」


「す、すいませーん……」


 一華は拳を振り上げて立ち上がり、翔太は首をすぼめて手でガードの構えをつくる。

 一華はふうっとため息をつき、座り直す。


「ファーストキス奪ってやって詩織ちゃんをからかってやろうと思っとったのに……」

「そ、そんな魂胆だったのか!? でも、俺は初めてじゃないから……」

「ええっ? だってキスはまだなんでしょう?」

「詩織とはしてないけど……」

「……!? 他の人とキスしたっての? 誰と?」

「うちの学校の…… 担任の先生とな……」


「えぇぇぇ――――!?」


 一華の叫び声はバス中に響き、散在する乗客の冷たい視線を浴びることとなった。


「す、すんまへん……」


 顔を真っ赤にして、大人しく座り直した。

 バスが京都市街に入ると乗客の数も増え、2人は一言も会話を交わすことなく京都駅に到着した。


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