バスの中で
一華は京都見物に翔太を連れて行くことを父に話した。
父は2人分の交通費を渡し、一華はそれを薄笑いを浮かべて受け取る。
郊外を走る市バスは空席が目立っていた。
一華は後方の2人席の窓際に座り、自分の隣に座るように手招きする。
席は他にいくらでも空いているのだが……
翔太は遠慮がちに彼女の隣に座った。
バスは山間部の細い道をひたすら進む。
時折大きく揺れ、その度に一華の肩が密着してくるので、翔太は通路側に身体を傾ける姿勢を保つようになっていた。そういう彼の気苦労には全く気付かない一華は、スマホの画面を器用に操作しながら、誰かとメッセージのやりとりをしている。
「よしっ……」
そう呟くと同時に一華は座り直す。悪戯っぽい顔で翔太に身体を寄せていく。
「ねえ、詩織ちゃんとはどこまで進んでおるん?」
「えっ?」
「キスぐらいは済ませたんでしょ?」
「キ、キスぐらいって…… 俺と詩織はそんな関係じゃないから!」
「ほな、どないな関係なん?」
「そ、それは……」
自分は詩織を守るために命を土地神に捧げた存在――
それを打ち明けたとき、詩織はどう考えるのだろうか……
翔太は不意に不安になった。
彼が考え込む様子を見て、一華はクスッと笑う。
「なんだ、キスはまだなんだ-。奪っちゃおっかなー、翔君のファーストキス」
「えっ?」
「ねえ、私とキスしてみる?」
「ええー!?」
翔太は驚いて一華の顔を見る。
一華は…… それまでの悪戯っぽい表情から一転、恥ずかしそうに目を逸らした――