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拗ねる

 白加美神社までの30分間、車内では親子の会話はほとんどなかった。

 白いワゴン車を運転する一華の父は、中学生の娘がいる年齢以上に老けている。銀縁メガネをかけた顔は目がくぼみ、頬がこけていた。茶髪で薄化粧をして、どこかぎらぎらした様子の娘とは対照的である。


 翔太と詩織は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。

 とんでもない所に来てしまったという思いがこみ上げてきた。


 駐車場からは石段を上って社殿に向かう。

 長い石段の途中で、一華の父から言われて後ろを振り返る。


「うわあ-、すごい景色……」

 詩織は京都の町並みが一望できることに景色に感動の声を上げる。

「覚えてる? この石段で私たちよく遊んでいたよね」

 と、一華が声をかける。

「うん、それは覚えているよ。じゃんけんでグーで勝ったらグ・リ・コと言いながら3つ進めるというやつよね。私なかなか勝てなくて、イチカちゃんがずっと離れて見えなくなって、最後は互いに自分が出した手を叫んでいたよね。何度やってもイチカちゃんの圧勝だった」

「あの頃のうちには幸運の神さんが付いとったからねー、うふふっ」

「そ、そうだったの?」

「一華、つもる話もあろうが、それぐらいにして詩織さんを本殿へご案内してくれ」

 一華の父は落ち着いた低い声でそう告げ、石段を上がっていった。

「ちっ……」

 

 一華は和やかな表情から一転、不満な表情に変え無言で石段を上っていく――




 本殿では一華の母が詩織用に式典の動きなどについて教えている。

 畳の間であぐらをかいて、その様子を眺めていた翔太の元に、一華が近寄ってきた。


「翔君、暇そうやね。うちと遊びにいかへん?」

 翔太の目の前にぺたんと座り、顔をのぞき込む。

 豊かな胸がポヨンと揺れるのを見て赤面する。

「ねえー、遊びに行こーよー」

「か、顔が近い…… から……」

 翔太は真っ赤な顔で上体をのけぞらせて声を絞り出す。

 首元が大きく開いたTシャツから胸を直接見てしまいそうで焦っている。

 ふと詩織が気になってちらりと視線を送るが、踊りの練習で全く気付いていない。

「んー? 彼女のことが気になるのかなー? うふっ、かわいい!」

「べ、別に俺たち付き合っている訳じゃないから!」

「じゃあ、いいじゃん! 遊びに行こーよ。ここにいても邪魔でしょう?」

「じゃ、邪魔ー!?」


 翔太はその言葉に異様に反応してしまう。先程から詩織が自分のことを全く見向きもせずに一華の母と話していることが気にくわなかったからだ。彼はまだ13歳。自分で気付かないうちに拗ねていたのだ。


「よし、遊びに行こう!」


 翔太はすっと立ち上がり、一華に手を伸ばす。一華はクスッと笑って、手を差し出した。


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