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悪霊退治

「ふうー」と詩織は一息つく。


 この儀式は一子相伝の巫女の力。

 この土地に古くから奉られる土地神と交信し、それを伝える力。


 この力を使った後しばらく彼女は脱力状態になる。


 額に汗をかき、ぱっつん前髪がおでこにひっつくのが気になるのか、幾度となく前髪を整える動作を繰り返している。


 学校では校則の関係でお下げに結っているが、巫女姿の時には三つ編みをカチューシャのように頭の周りにぐるぐると巻き付けておしゃれをしている。

 

 しばらくその仕草をぼーっと見ていた翔太だったが、大事なことを思い出す。


「佐々木の婆さん…… 悪霊に取り憑かれていたぜ……」

「また視えたの? どんな悪霊だった?」


 悪霊の姿は巫女である詩織にも見えていなかった。

 悪霊の姿の特長を翔太に聞いた詩織は、


「じゃあすぐにお祓いをしないと……」


 と言って、立ち上がろうとする。

 しかし祝詞を上げた疲れがとれていないためよろけてしまう。

 すぐさま翔太が駆け寄り身体を支える。


「無理するなよ。まだ体力が回復していないんだろ?」

「でもすぐ行かないと、佐々木さんが心配よ!」


 2人は奥の部屋に下がった詩織の父に気づかれないようにそっと表へ出る。

 詩織が悪霊払いすることを父は禁じていた。

 娘の命を削ってまで無理をさせたくないという親心であるが、それを理解するには2人はまだ若すぎた。


 鳥居のそばで佐々木のお婆さんを引き留め、事情を説明する。

 その場で詩織が大祓詞(おおはらえのことば)を唱える。

 老婆の腰にしがみついているギョロッとした目の悪霊がそわそわし始める。

 だがその悪霊の姿は翔太にしか視えていない。

 悪霊がこらえきれずに手を離し、ふわりと空中に浮かんだ。


「詩織、そこに浮いた!」


 翔太が指を指す。


「悪霊退散――!」


 詩織が翔太が指を差す空間に向かって気を放つ。


『キキィィィー』


 断末魔とともに悪霊が消滅した。




「佐々木さんに取り憑いていた悪霊はそれほと強いものではありませんが、強い怨念を抱えた霊を呼ぶことがあるのでお祓いしました。少し楽になりましたか?」

「ほんとにありがとうございます。最近、腰が痛くなっていたのだけれど、年のせいと諦めていたの。これで大分楽になりましたよ」


 佐々木のお婆さんは何度も頭を下げながら帰って行った。

 それを見届けた途端に詩織は力尽きよろける。

 すぐに翔太が体を支えた。

 お払いの儀は激しい動作をするわけではないのだか、精神的に疲れているのだろう。


「ふうーっ」


 詩織は息をはき、軽く目を閉じた。

 

「今からじゃ30分位しか勉強できないね」

「腹減ったから先に菓子食わせろ!」

「ええっ、勉強するんだよね?」

「お茶タイム15分、勉強15分でいいだろ?」

「いいけど…… 来週の英単語テスト不合格で補習になったら一緒に帰れないよ?」

「そっかー、再テストがあったかー。でも俺は英語は得意科目だから大丈夫だよ?」

「…………ふっ」

「もしやお前が自信ないの?」

「ないのよねー、ははは……」


 巫女姿の詩織も翔太と二人きりになった途端にいつもと変わらぬ雰囲気に戻る。


 それは5月に入ったばかりのある日の日常――

 下賀美神社の境内のイチョウの木に芽生えたばかりの葉が、爽やかな風にゆられてざわついている。

 上空には夕焼け雲が浮かんでいる。

 雲の形も春の空から夏の空へと移り変りつつあった。

 そんな日常の話――


第一章 完結

ここまでは舞台設定の説明が主体となりました。次回からがいよいよ本編(?)です。

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