京都駅にて
京都駅へ到着した。
2人が駅の改札を出るなり、茶髪の女の子が、
「詩織ちゃーん! おいでやすぅぅぅ!」
と、勢いよく詩織に抱きついた。
ポヨンと大きな胸が詩織に当たる。
すぐ隣で呆気にとられて見ていた翔太は瞬間的に顔を赤くする。
「い、イチカちゃん、胸が…… 胸が当たっているから!」
「えー、いいやん、おなご同士やから。何年ぶりでっしゃろ? 詩織ちゃんは昔からあんまり変わっておりませんねぇ」
「えっ? それってどういう……」
茶髪の女の子は、ぎらぎらした瞳で翔太の全身を見やる。
そして、いたずらっぽく微笑んだ。
「詩織ちゃんの彼氏君? 小っちゃくてかわいらしいわね。ボク小学生?」
「うっ……」
「あ、お父ちゃんの車で迎えに来たのよ。駅前に停めとるから急いでついてきてー」
茶髪の女の子、一華はさっさと一人で歩いて行く。
戸惑いながらもそれについて行く詩織は、一華の変わりように驚いていた。
「昔会ったときはあんなに派手な子じゃなかったのに……」
「ははっ…… なんか俺、このまま帰りたくなってきた……」
「それじゃ、私が一人になっちゃうよ。ここはぐっと我慢のしどころよ!」
「大丈夫だ。いざとなったらこの神器の扇を使って……」
「それで何をするの? ま、まさかひどい性格の人を真っ当に変える力があるというの? その神器の扇に?」
「はて、ひどい性格の人って、どなたのことですの?」
翔太が懐から出した神器の扇を注視していた2人は、一華が振り向いていることに気づかなかった。
「ち、違うの、私たちの学校の先生の話をしていて……」
詩織は手をぱたぱた振りながら、しどろもどろにうそぶいた。
一華はその様子をぎらぎらした瞳で見ていたが、ふと翔太の持つ神器の扇に視線を送る。
「ねえ、その扇子変わっているわね。ただの扇子じゃないわね? なんだか不思議な力を感じるわ」
「この扇の力が…… えっと…… イチカさんにはわかるのか?」
「一華でいいわ、桜木翔太君。おいでやす京都へ!」
「えっ? 俺のこと知っていたの? 知っていたのにさっきは小学生扱いしてきたの?」
「ほら、あれがお父さんの車よ。はよ乗りましょ!」
一華は白いワゴン車の助手席にさっさと乗り込んだ。
翔太と詩織の2人は、改札を出てからここまで終始、一華に翻弄されっぱなしであった。