屋上に積まれた石
翔太と詩織は屋上で遊んでいた。
正確には遊びではなく、土地神から預かった『神器の扇』の使い方の練習をしているのだが……
「じゃあ、早速やってみましょう!」
意外にも積極的な詩織が『トトト……』と5歩ほど距離をとり、
「えいっ!」と、翔太に向かって小石を投げつけた。
「うわ、顔に向かって投げつけるなよ、危ないだろ!」
と、文句を言いながら扇で顔を防御すると……
小石が『バシンッ』と粉々に砕けてぼろりと落ちた。
「……すごい! それって、ぶつかった物を何でも粉々にしちゃうの?」
詩織が目を丸くして感嘆した。
「扇を使う者の気持ち次第で破壊することもあれば、そっと受け止めることもできる。さらにはこの世界から消滅させることもできるらしいぞ!」
「本当に!? すごいじゃない、神器の扇!」
昨夜、神様から教わったことの受け売りだが、彼女が喜ぶ様子をみて誇らしげに思う翔太である。
「翔太ー、次行くよー!」
「うわっ、待て待て待て、それは大きすぎだって。どこから持ってきたんだよそんな岩?」
詩織がボーリングの球ほどの岩をよろよろと持ってきた。
「ほら、あっちに沢山あるよ?」
見ると、確かに大小様々なゴロ石が積んである。大きい物でボーリングの玉ぐらい、小さい物で野球のボールぐらいの岩や石が、50センチぐらいの山となって積まれている。何者かが故意に積み上げたと思って間違いないだろう。
「……中学校の屋上になぜこんな石の山が築いてあるんだ? っておい、投げるな!」
「えっ!? わっ!」
「危ない!」
岩を頭上に持ち上げていた詩織は、翔太の叫び声に驚いて体勢を崩した。
咄嗟に翔太が手を伸ばすが届く距離ではない。
すると手に持っていた神器の扇が『パサッ』と開いた。
扇から小さなつむじ風が巻き起こり、詩織の身体を支える。
しかし詩織が持つ上げていた岩は落下し、屋上の床がひび割れる程の衝撃音が鳴り響いた。
屋上の鉄扉が開き、誰かがやってきた。
「くっ――! またあなた達なの? ……ったく。何で放課後にまであなた達の顔を見なくちゃ行けないの? ……ったく! この下は音楽室だから衝撃音がすごく響いてくるんですけどっ!」
ぷんぷん怒っている大橋先生だった。彼女は翔太と詩織の担任の先生である。
「あっ、先生お久しぶり。帰りの会ぶりですね……」
「はあっ?」
詩織の渾身のユーモアも大橋先生の前に玉砕した。
「あなた達何をやっていたの? また何か私の邪魔を………… ああああああー!」
「えっ? な、なんですか?」
おろおろする詩織の足下を指さしている先生。続いて、
「あああああああー!」
屋上の隅っこに置かれていた石の山を指さした。
「あなた達…… なんということを…… その石の山には魔物を封印していたのに!」
「ええっ!?」
翔太と詩織は同時に声を上げた。詩織は石の山を崩してしまった。と、言うことは……
『キェェェェェェェー!』
突然、真っ黒な物体が2人を襲った。
翔太は詩織を左腕で自分の背後に押しやり、右手の扇子で『バチン!』と跳ね返す。
黒い物体の正体は……
黒いくちばしに黒い羽。それは広げると4メートルはある……
「でかいカラスだ!」
「鴉天狗よ!」
翔太と詩織の意見が久しぶりに食い違った。