私の魅力って?
「翔太が私の身体を目当てに襲ってきた訳じゃないことは分かったわ」
「そうか…… 分かってくれて良かったよ!」
頬を赤く腫らした翔太が涙目で笑った。
「でも、大橋先生が邪神と契約しているなんて、現実離れしているわ」
「巫女として神様のお告げを聴いているお前が言うなよ。それに神との契約は俺だってしているぜ? っておい、そんな訝しげな目で見るな! そのお陰で何度も助かってきただろ? 俺たちは!」
焦る翔太を見て、詩織はフフッと笑う。
「そうね。それは分かってる。ちょっと嫉妬しているんだ、私……」
「嫉妬?」
「そう、嫉妬…… 私は巫女になって神様の言葉を聞くだけ。それなのに、翔太は神様とお話ができるなんてずるくない? 私は翔太と会うずっと前から神様とつながっていたのよ?」
「お、俺だってずっと昔から神様に祈りを―― 痛っ! おいっ叩くな!」
『お主は一度たりともワタシに祈りを捧げたことがないだろうが!』
土地神に扇子のような物で『バシン』と頭を叩かれた翔太は頭を抱えた。
愛情ではなく愛憎のこもった一発である。
「ねえ翔太…… 神様はそこにいらっしゃるの?」
翔太が文句を言った先の空間を指さして、詩織が訊いた。
「ああ、ここにいらっしゃりまする」
武器を持った土地神に気を遣いすぎて変な言い方で答えてしまった。
詩織は『ぱあっ』と笑顔になり、深くお辞儀をし、
「神様いつもありがとうございます。ふつつか者ですがこれからもよろしくお願いします!」
顔を上げてにっこりと笑った。
それを見た土地神は神とは思えないほどに表情を崩し頬を赤らめ……
『うほぉぉぉ、見たか聞いたかぁぁぁ、我が巫女の可愛らしさは邪神をも嫉妬させる、天下一品の女だ! お主もそう思うだろ? なあ?』
詩織の周りを巡りながら興奮を抑えられないという感じに言っている。
「ねえ、神様は何かおっしゃってる?」
「うっ………… それは…………」
真実を伝えるのが必ずしも正義とは限らない。
「邪神はお前の魅力に嫉妬しているとおっしゃっているぞ」
彼は嘘は言っていない。
「わ、私の魅力? 邪神が嫉妬? 私の魅力って何?」
「可愛いところだろ」
翔太は即答した。そう言ってから、彼は自分の発した言葉の意味に気づいて赤面する。
詩織は顔を真っ赤にして、もぞもぞ動きながら恥ずかしがる。
彼らが冷静に話を進めるにはもう少しの時間が必要だった。