浄化の力
翔太は詩織を屋上の床に寝かせる。
詩織の顔をのぞき込んでいると、やがて彼女はゆっくりと目を開けた。
「詩織、大丈夫か?」
詩織は何かを手探りで探そうとしているように両手をあげていた。
翔太には自分の顔に触れようとしているように見えていた。
「俺はここにいるぞ。まさか目が見えないのか?」
やがて詩織の手が翔太の……
首に届いた。
「――――うっ!」
詩織の両手が翔太の首を締め上げる。
「な……ぜ……?」
翔太は詩織の顔を見る。
彼女の目は焦点が定まっていない。
妄想状態のように見えた。
詩織の手をはずそうと試みるが、手が滑って思うようにならない。
(や、やばい……)
薄れゆく意識の中で、土地神の声が聞こえる。
――お主、少しの時間耐えられるか?――
彼の中に入っている土地神が伝える。
(元から神に捧げた命だ、覚悟は決まっている!)
翔太は心の中で返答した。
――よい心がけだ。では褒美を与えよう――
土地神は翔太の身体で詩織に覆い被さる。
そして彼女の腰に手を回し、首を絞められた体勢のまま強く抱きしめる。
――巫女は邪神の霊気に侵されておる。それを我が身体により浄化する――
翔太の首を締め付ける力が弱まり、やがて腕をだらりと下げる。
詩織の表情が柔らかくなり、元の彼女に戻ってきたことが分かると、
「良かった…… 戻ってきてくれた……」
安堵の表情で、詩織の身体を強く抱きしめた。
『良かったな…… 巫女はすっかり元に戻っているぞ……』
いつの間にか土地神は翔太の身体から離れていた。
『おい小僧! そろそろ離れろ!』
土地神の口調が急に変わり、ふと詩織の顔を覗くと……
詩織は真っ赤な顔で口をあわあわさせていた。