視えない!
――再び生徒会室。
「先生と話していると、どんどん嫉妬深くなって行く自分が怖かった。昨日の帰りがけに先生に呼ばれて音楽準備室に行った後の記憶がないの。先生、ウチになにかした? 気づいたときにはそこの1年生に殴られていたのだけど……」
サキが大橋先生に問い詰める。
先生は『やれやれ』というように手を広げ、
「サキさん、あなたはもっとやれる女だと思っていたけど、先生の見込み違いだったようね。残念! 私があなたの立場だったら躊躇なく邪魔者は消したけど…… ああ、別に殺す必要はないのよ。精神的に殺すの。これ以上ないぐらいの恐怖心を植え付ければいいの。ふふっ……」
と、詩織に向かって濃艶な笑みを浮かべた。
「まあ、あなた達も大したものね、どこまで把握しているのかは知らないけど、私の存在に気づいただけでも大したものだわ。でもこれ以上は詮索無用よ。先生も聞かなかったことにしてあげる!」
翔太と目を合わせ、彼を牽制するように言いながら、生徒会室から出ようとした。
サキがドアを押さえつけて抵抗する。
「あらサキさん困った子ね…… 先生は音楽室に戻りたいのだけれど?」
「先生…… あなたは悪霊に取り憑かれているって…… だからおとなしくお祓いを受けてください…… そしてまた、色々な話をしましょう!?」
サキは涙ぐみながらそう言った。
「はぁ? 悪霊に私が? 何を言っているの。さあ、そこをどいて!」
強引に突破しようとする先生をサキがドンと突き飛ばす。
先生はよろけるが倒れずに踏み止まる。
ゆっくりと顔を上げ…… 不気味に笑った。
シャン――
清らかな鈴の音。
詩織が神楽の舞のポーズをとる。
生徒会室にいるメンバー全員の視線が集まる中、大祓詞の詠唱が始まった。
しかし……
大橋先生は表情を変えることはなかった。
翔太はその様子を見て焦っていた。
そこに居るはずの悪霊の姿が視えないからだ。