屋上から救世主?
屋上から『女子会』を見下ろす2人の男――
「お主が寝ている間に我が巫女が傷ついておるぞ、どうしてくれる?」
黒装束の土地神が腕を組んで言った。彼の姿は隣に立つ翔太にしか見えていない。
「たまには屋上でのんびりしようと横になっているうちに寝ちまったな。しかし神様まで一緒に寝ることなかったんじゃないか? そもそも神も寝るの?」
「たまには人間の真似事をしてみるの悪くなかったぞ。ただ少し寝過ごしたようだ。低俗な悪霊に好き勝手やらせてしまったようだ……」
「じゃ、今から遅れを挽回しましょうか!」
翔太はポンっと屋上からジャンプして、『ズドーン!』という地響きのような振動と共に花壇の柔らかい場所に着地した。
足は30センチぐらい地面にめり込んだが、『ズボッ』と足を交互に引き抜く。
「さあ、悪霊退治の時間だ!」
翔太は肩を鳴らしながらニヤリと笑った。
「しょ、翔太…… ごめんなさい…… 私…… 1人では何もできなかった……」
サキに捕まっている詩織が涙をぽろぽろ落としながら言った。
「今頃気付いたのか? お前は俺がいなくちゃ何もできないだろ?」
「ちょっとあんた何様のつもりなの? あんたはケンカが強くて乱暴なだけの鈍感男じゃない。私はあんたを認めない。詩織はあんたの陰でいつも泣いているのよ――――!」
三咲が肩に噛みついていたサキの仲間の顔面を殴った。すると翔太の目には大蛇が空中に飛び出し、一直線にサキの身体に向かう姿が視えた。
サキの異変を感じた詩織は、足首を掴んでいた手を引き剥がし、起き上がる。
サキから数歩離れた場所で手を広げ、祝詞の詠唱のポーズを決める。
「高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を。神集へに集へ給ひ。神議りに議り給ひて。我が皇御孫命は……」
四つん這いになったサキが、長い髪の毛をゆらゆら広げ、間を詰めてくる。
『シャァァァァ――――!』
間合いに入った瞬間に跳躍し、大きな口を広げ詩織の喉に噛みつこうとする。
『バキッ――!』
翔太が一瞬の間に間合いを詰め、サキを殴った。
『ズササ…………』
サキは四つん這いで地面に着地し体勢を整える。
サキと翔太はにらみ合う。
詩織が詠唱する祝詞が終盤に差し掛かると、サキの様子に落ち着きがなくなる。
「詩織、今だ――――!」
翔太は詩織を後ろから抱え込み、
右手を握り、屈んだ。
すると足下に青い光の輪が出現し、
2人の身体は空中高くにジャンプした。
右腕を真っ直ぐに伸ばした2人は、声をそろえて、
「悪霊退散――――!」
と叫んだ。
『シャァァァァ――――…………』
ヘビの姿をした悪霊は断末魔と共に消え去った。