赤く染まる制服
詩織の肩にサキが噛みつき、制服が赤く染まっていく。
「くっ――――!」
うつぶせに地面に倒れた詩織は、上半身をねじり、右手でサキの頭を引き離す。
すると、サキは体重をかけて詩織を押さえ込む。
詩織は仰向けに倒され、サキは上から覆い被さる。
ニタァと笑うサキの口からは、唾液がぼたぼたとこぼれおちる。
詩織の腹、胸、首筋にサキの唾液が落ち、顔をのぞき込むように顔を寄せられる。
「ううっ……」
詩織の恐怖は限界に近づく。これ以上は耐えられない。
その時――
「詩織ー!」
「神崎さん!」
三咲と鈴子部長の叫び声が聞こえる。
サキの仲間に羽交い締めにされて動くことができない中、自分を心配してくれている。それが詩織に少しだけ勇気を与えた。
さらに、その2人の呼びかけにサキが一瞬だけ目を逸らしたその隙に、
「高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を。神集へに集へ給ひ。神議りに議り給ひて。我が皇御孫命は……」
詩織は神に仕える巫女として祝詞を唱え始める。
するとサキはうなり声を上げながら、苦しみ出す。
やがて動きが止まり、詩織の上に『どさっ』と覆い被さる。
詩織はサキの身体を地面に押しのけ、
「三咲、部長、大丈夫?」
2人に声をかけた。
しかし……
「きゃぁぁぁぁー!」
三咲の悲鳴が上がる。
三咲を拘束していたサキの仲間の様子が豹変していた。
悪霊が憑依先をサキから仲間へ替えたのだ。
「三咲――――! うっ……!」
詩織が助けに向かおうと足を出すと『ガッ』とサキに足首をもたれてその場に倒れ込む。
サキの顔をみると、まだ目が赤く光っていた。
悪霊の本体は仲間に移ったが、まだその影響力は残っていた。
「ご、ごめんなさい…… 全て私のせい。私が2人を誘ったから……」
詩織の目から涙がこぼれ、力なく倒れ込む。
3人が全てを諦めかけたその時だった。
「俺をのけ者にして放課後の女子会かぁ?」
翔太の声が夕刻迫る校庭に響き渡った――――