監視
その日の放課後、詩織は女子会を開くからという半ば強引な理由をつけて翔太を先に帰らせた。翔太自身も最近は寝不足気味ということで素直に下校していった。
ここは放課後の生徒会室。
詩織、三咲、そして園芸部部長の木村鈴子が窓に貼り付けいてる。
「部長、グッドアイデアです! ここからだとよく花壇の様子が見えますね」
三咲が笑顔で部長を賞賛した。
「そうだろう。生徒会室の窓からは花壇も校庭も校門の様子もよく観察できるのだ。生徒指導の先生たちも何かトラブルがあったときなど、ここから生徒の様子を観察しているぞ」
「ううっ…… それは生々しい裏情報ですね」
「ただ、それも過去の話だよ。ここ1年間は何事もなくすんでいるからね。平和な学校だよ。今回のようなことがなければ……」
鈴子部長は寂しそうに言った。
「部長も三咲もごめんなさい。やっかいなことに巻き込んじゃって……」
詩織が二人に謝る。
二人は巻き込まれたなどとは思っていないことを詩織に説明し、互いに納得した。
同席していた生徒会顧問、そして詩織達の学級担任の大橋恵美子が、
「事情は判ったのだけど、あまり遅くまで残っていてはだめよ」
と言い残して職員室へ戻った。
大橋先生は教師になって3年目にして初の学級担任。クラスの男子が何かとトラブルを起こしていつもかけずり回っている印象の先生だ。そのためか、本来は口元のほくろが印象的な細身で美しい顔立ちなのだが、いつも表情に暗い影を落とし、まさに『薄幸の美人』という感じの女性だ。詩織は翔太に代わって心の中で謝った。
下校時間を告げる放送が鳴り、生徒達が続々と昇降口から校門へ向けて移動する様子がよく見える。
時々、花壇の様子をのぞくような仕草をする生徒もいるが、何事もなく下校時刻が過ぎていく。
3人は互いの顔を見合わせる。ほっとしたような残念なような、複雑な心境だった。
「さすがに昨日の今日でまた荒らしに来るということはないか……」
三咲がつぶやいた。
「そうだな…… まあ、何事も起きなければそれに超したことはな――」
鈴子部長がそう言いかけたその時、人影のようなものが花壇に入っていくのが見えた。
「来た――――!」
3人は同時に声を上げ、昇降口へ駆け下りる。
クツに履き替える時間も惜しいと感じるほど急いで外に出る。
〈〈絶対に犯人を捕まえてやる!〉〉
それは園芸部の部員としての意地だった。
しかし、彼女らの足はその場で止まっていた。
花壇にいる『人物』は――
四つん這いでギロリと赤い目で睨む――
妖怪のような姿のサキだった。