春の花壇
今日は週2回程度の不定期な園芸部の活動日。
神崎詩織と大空三咲は昇降口わきの花壇にいた。
園芸部は校内の花壇の整備が主な活動である。
二人は唯一の1年生であり、その他の部員は3年生1人、2年生3人の計5人という少人数の部活だ。
春から夏にかけて咲かせるコスモスとサルビアの種まきをしていると、昇降口から出てきた剛史ら3年男子と目が合う。
「あっ……」
怯えるような仕草を見せた詩織を三咲が心配する。
剛史は詩織に気づいて何かを言いかけたが、三咲がじろりと睨みをきかせて制止した。
「ちょっとイケメンだからって調子に乗ってんのよね、あの男!」
ぷんぷんになって怒っている親友の頼もしい姿に詩織は救われる。
剛史はサッカー部であるが、最近はさぼり気味らしい。いつも同学年の3人でつるんで遊びまわっているらしい。そんな彼をサキが追いかけていく。彼女は詩織の視線に気づくと『キッ』と睨んで行った。
詩織は苦笑いを浮かべた。サキは非常階段で平手打ちをされた以来、何も言ってこなかったのでもう終わったと思っていたのだが……
(私…… サキ先輩にまだ恨まれているの?)
神社では大人の相談相手になっている詩織にとって、同年代の男女の色恋沙汰には無頓着なところがある。
三咲がふと見上げると、3階の教室から外を眺めている男子を発見。
「詩織、彼氏が見てるわよ」
「えっ?」
桜木翔太が窓から外を眺めていた。
「ち、ちがうよ、私たち付き合っているわけじゃ……」
「四六時中一緒にいるくせに、まだ付き合っていないと言い張るの?」
「そ、それは……」
顔が沸騰しそうなぐらい真っ赤になる。
「ねえキミ、下に降りてきて手伝ってくれない?」
3年生の部長、木村鈴子が翔太に向かって言った。
「えっ? お、俺ですか?」
「そう! 土を運ぶのに男手が必要なのよ」
「おっ、鈴子部長、さすが気が利きますねー!」
三咲が詩織を茶化すように言った。
「ん? どうした三咲、何のことだい?」
木村鈴子は背が高く、バレーボール部があれはエースを張れるぐらいに運動神経もよい。短髪でボーイッシュなイメージそのままにサバサバした性格の持ち主でもある。
将来は有名歌劇団の男役になっても不思議ではないくらいほりの深い整った顔立ちをしている。
女子には圧倒的な人気を誇る、園芸部部長兼生徒会副会長である。
翔太が降りてくるまでの間にも三咲による詩織への茶化しが続いていた。
「べ、別にお前のこと見てたわけじゃないからな」
「分かっているわよそんなこと」
2人のやりとりを聞いた三咲がニンマリと笑う。
「神崎さん、彼を堆肥の場所まで案内してあげて」
鈴子部長の何気ない言葉に異常に反応した詩織は……
「かかか、かれって…… 私たち付き合っているわけじゃないです!」
「おや? 私、何かおかしなこと言ったかな?」
首をかしげる鈴子部長。
三咲は腹を抱えて笑い転げていた。