98 めありーの白衣姿
「それで」
「メアリー、目が怖いよぉ」
「それで、どうして私まで白衣なんですか。モンスターの歯医者さんである洋次なら、まだ百歩譲っても、わ・た・し・が白衣を着用する必然があるんですか?」
服屋と生地屋を兼ねているイトに泣きつかれた洋次は、白衣を二枚発注した。ただ白い服ではなく、俗に言うナースコスチュームだ。
「いやーー。白衣で何日か稼げると油断したら、大失敗。まさか今日の今日白衣を持参するとはね」
イトが、サラージュが稀人の足跡のある町だと教わったばかりでの失敗でした。
「なんと白衣の在庫があったんだよ。失敗しっぱい」
釈明している洋次の顔は、失敗した慙愧の念のカケラもない。
「だから、どうして私が白衣を」
「だってほら、二枚買って私しか着ないんじゃ、泣き脅しで白衣買ったと証明するようなものだし。不必要に同情されたとバレてもマズイし」
「私が着たらバレないんですか?」
メアリーさん、メアリーさん。巨峰連山が揺れてますよ。詰問されて進退窮まる洋次と、サンバカーニバルでもしたいほどハッピーな洋次が攻防中だ。
「せっかく購入したんだし、それにね、医療機関は白系とか明るい色を着用するんだ」
「わーーたーーしーーは医者ではありませーーん」
「私かカミーラから借りている尖塔にでは入りしていると、ほら、関係者だと間違われるじゃない?」
「それで?」
「歯医者さんの関係者が真っ黒は、正直上手くないんだよ」
「色に関してはその説明で収めましょう。でも、どうしてこのは・く・い・はピッタリなんですか?」
「ナース服はそうしたもんなんだよ。ムダな装飾とか生地がなくて動きやすいように」
少しだけメアリーがオバケ──ただし、可愛い系の──っぽくなっている。
「それだけですかーーー? ほんとーーーに、それだけですかーー?」
まさかメアリーが普段着用している衣服はセクシー度数が限りなくゼロを指しているから、渡りに船だったとは白状できないし。
「そ、それだけです」
「 っぽい」
「サラージュの『モンスターの歯医者さん』が清潔感に欠けては困るじゃない? ね?」
「私は、は・い・し・ゃ・ではありません」
「でも、その」
イトに泣きつかれて、泣かれ疲れた洋次。それに、そうだ。
「なんだか、この白い服に隠された意図があるのでは?」
「いや、イトさんのお願いだから……」
メアリーの芸術的な曲線が一層鮮やかに描かれる白衣着用を見逃す手はないんじゃないか。そうだ、もう一歩全前進するんだ、洋次。
「時々で構わないから、これがサラージュ。いや」
ウソはつきたくなかったんじゃないのか。
「異世界で頑張る『モンスターの歯医者さん』に活力を!』
最後は洋次が泣き脅し。
「サラージュの、ためなんですね?」
「メアリー優しい、メアリー天使」
「はいはい。では、今日着用しましたからしばらくは衣類箱に収めますからね」
「はーーい!」
なぜかバンザイしている洋次。
「もお。それでは、後ほど。今は失礼致します」
「じゃーーねぇーー」
とことこと洋次の仮宿の尖塔からサラージュ本城に移動していく。
「あれ、今日は歩く姿が見えるんだけど」
とことこ。メアリーは歩く。
「普通に歩けるんだぁ」
歩けるんです。
「あ、ばいばい」
いつの間にか、いつもメアリーの周囲にいる風の精霊たちが、美人すぎるメイドと手を繋いで歩いていた。精霊の一人、東風が振り返ってバイバイをしたのだ。




