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97 イヌミミ族のイト(男性)


 年齢は二十代前半の青年。でも、ランスからの事前情報だと十八歳のイヌミミ族だ。コボルドとは人種が違うらしいから、要注意。(なんに対して?)


「イトと申します」

「い・と・? イトさんですか」

「ええ、針に結ぶ、あのイトと同じイトです」



 鍛冶職人見習いでミキサー製造のリーダーを勤めてもらっているコダチから紹介された人物。

 狭いサラージュの町だからニコの店の三件隣り、ランスの工房からも徒歩数分の距離だけど、紹介されて対面するのは初めて。


「先日、鍛冶屋の工房で酔いつぶれていましたけど」

 ミキサーの試作の時だ。あの夜は、未成年の洋次も酔いつぶれてメアリーに叱られました。


「ごめん、覚えていません」

「それはそうでしょう。でも、〝やっと〟私も稀人様のお手伝いができます」

「いや、お手伝いと」

「手伝いたいんです。だって」

「ああ、真剣なんですね」

 傍観者にはホモの密談密着って、いや~な距離にとられなくもない。


「ああ~尻尾を立てないでください」

「これだけ尻尾を立てる意味をおわかりですか?」

 因みに、主にメアリーから地球とオルキアではボディランゲージが異なることは実証済みだ。イトが、イヌミミ族が尻尾を立てるのが、怒ってるのか悲しんでいるのか、ま、まさかホモなのかは不明。


「ってか最後のパターンなら知りたくないですぅ」

「わかってください」

「涙目で肉薄は」

 メアリーやカミーラ、美少女美女限定でお願いします。


「正直、人口減とか服屋も商売が上がったりなんです。もう、商売を統合するしかないと思案すら。つまり私は廃業ですぅ」

「そうですか、あの毛先つんつんするんで離れてください」

 ドン引きしながら、イトの毛はブラシに加工できないなどと、脳内がすっかり『モンスターの歯医者さん』になっている。


「それで、ですね」

「はい、どんな商売、商品でしょうか」

 今度は左右に動く尻尾。どうも気が散って仕方ないのだけど。


「イトさんは、その地球語によく似たお名前ですね」

「商売に関係しますか」

 随分現金だな。


「いえ、純粋に興味ですけど」

「まあどうしてもお知りになりたいなら仕方がありません」

「まぁ礼儀正しい」

 服屋だからなのか。イトは蝶ネクタイを整えてから答える。


「このサラージュは、以前は稀人様の隠居地でした。もちろん、貴方ではない稀人の」

「初耳です」

 とイヌミミに答える。


「まあ私が知っているのは、あの美貌の間違った少女、メアリーが」

「ちょ、ちょっと待って下さい。メアリーのどこが間違っているんですか?」

「おや」

 ぴくぴくと激しく動くイトのイヌミミ。


「あのように町エルフであってもエルフでありながら、耳を活用しないのは同じ耳を尖らせる種族としては残念無念であります」

「はぁ。イトさんの服屋は間違ってない、と?」

「無論であります。稀人様」

 今度は前後に動く耳。


「ああ、もしかして耳を動かせと?」

「左様。動かない耳など、何用でしょうか」

「……その耳の活動論理はまた後日」

 後日の課題が累積している洋次だった。


「そうですか、残念ですが、メアリーとも因縁があった勇者のガリュなる稀人、人物が住んでいたのが改築手直ししておりますが、現町長の住居でした」

「ああ、サラージュ城じゃないんだ」

「私は、町長宅だと聞き及んでます。続けますぞ。それで、ガリュ氏は、二年ほどこのサラージュに住んでおりましたが、結局王都に帰還されたと。メアリーとは、王都の新しい住居でお使えしたとか」

「ガリュって稀人の話しはチラッと。でもサラージュに住んでいたのか」

「はい。それで、ガリュ様だけでなく稀人様から、命名された人物。多少言葉を教わった人物がいた名残で異世界語やニホンゴがサラージュに残っております」

「だからコダチとか、サヤとか」

「はいーー。私の場合は服関係で、イ・ト・と」

「コダチは女性っぽい印象もあるけど、小さい刀だから、間違ってないものな。そうか、こんな稀人の足跡が」

 で、ここで洋次がクエスチョンタイム。


「で、どうして先輩稀人たちはサラージュをこんな風に? 正直稀人が何人も来てたなら、もっと開けていいと思うんですけど?」

「まぁ、その。ほとんどの方は、故郷へのご帰還や中央でのご出世。またはモンスターの討伐などに精を注がれてまして。住民は貢ぎ物を運ぶくらいの扱いでした。私が見聞きした限りは」

「そうですか、モンスターの、そして歯を気にする稀人なんてこれまで存在していなかったんだ」

「サラージュの領民、町民としては、稀人洋次様に期待すること、莫大なんです。既にランスはご栄光の誉れを賜っている模様。そろそろ私にもぉ」

「あーーー」

 涙がナイアガラの滝みたいに流れている。


「それほど大商いじゃない、かも?」

 またイトから落涙。そして犬の遠吠えへと連動する。


「参ったなぁ」

 イトもイヌミミ族、モンスターの一部だ。


(その口を塞ぎたいよ、今日限定でいいから)


 モンスターの歯医者さんの現実は、まだまだ厳しい。



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