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09 サラージュの稀人になればいいんです


「メアリーは先生でしょう。なら、俺はオルキア語で町の皆と普通に話せるのが目的でしょ? 〝今はゼンゼンわからなくていいんだ〟。オルキア語を聞いてみたいんだ。お願いします」

「ふうん」


 そこでメアリーは立ち止まる。そろそろロープを解いてもらうタイミングだとの願いもあった。


「そうね。じゃあ」

 あれ、司馬仲達メアリー無手勝流ノー・プラン。だけど最凶最悪の攻撃をする。薔薇の唇に、白魚のような人差し指をとんっと載せる。


 狡いぞ、メアリー。

 巧妙だぞ、メアリー。

 ほ、惚れてしまうじゃないか。


稀人まれびとは、オルキア国だけじゃなくて、大陸を含めて、世界バナトの人じゃない存在を言います。……まれびとはオルキアくに、だけ、じゃ……」


 オルキア語と日本語の対比をしてくれるのか、同じセリフを二度喋ったメアリー。メアリーの親切は、厳密には二度手間なんだけど、仮説が結論になったことが重要なんだ。


 やはり、洋次はオルキア語がわかる。

 そりゃもう地元民ネイティブのように。


「稀人が、どうのように我が大地バナトを踏み入れるのかは」

 さあ、ここが肝心だ。無意識に唾を飲み込んでいた。

「よくわかっていません」

「そ」


 そうなんだ。驚いたな。実は板橋洋次おれも脈絡なくバナトにトンでいたんだよ。


 そう洋次は答えるべきだった。でも、召喚の方法手段や目的が不明だと、帰還の扉は顕微鏡で探さなきゃ発見できないほどのナノな鍵穴しかない。

 痛烈な設定に黙って頷いてメアリーの解説を拝聴する。


「ですから、バナトの一国、オルキア王国では、まれびとを保護し、まれびとは、異世界の知識や経験を伝えることで相互助け合っています」


 困ったな。

 洋次の感覚が正しいなら、メアリーの瞳は輝いている。初対面の瞳は涙ウルウルだったけど、そりゃあたまたま。でも貫通するくらいに鋭い視線と感情がメアリーから放出されている。


 俺、山登りしか知らないよ。その山登りだってやっと初級か中級者レベルなんだ。


「また、まれびとが滞在するこは領主の名誉でもありますし、特に特に当家にはまれびとがぜぇーーーったい必要だったんです」

 なんて強調をする美少女だろうね。


「はへ?」

 綱を握ったままメアリーは握り拳をかざす。人道的には綱から開放する頃合だが、放置。ワンアクション毎の胸の振動は、その、嬉しいけど自由に動けない窮屈で、結構な苦痛になっている。


「必要です。その後で、洋次はまれびととしてサラージュの稀人になればいいんです。稀人は特典があります」

 余談だけど、メアリーが連呼していた稀人とまれびとの違いを洋次が理解するのは、これからずっと後のことになる。


「ああ、血ドバで死なないんだ」

 ホッとした反面、どうして詳しく説明してくれなかったのかと不満もある。


「……てくて、ありま。す」

 証明終了。メアリーのニホン語力では、社会情勢まで理解させるのは難しいんだ。まさか、洋次がオルキア語完璧理解とは予想しないのが一般的だし。


「稀人は、無資格でもほとんどの商売が許可されます。また、免税されることがほとんどです」

「へぇすごいね」

 免税は恐ろしい特典だ。でも特技やチートもない転移者には無関係な次元だけど。


「貴方が商売を始めたら」

 不意にメアリーが急ブレーキ。洋次がうっかり半歩の距離まで近づいても、意味深に自分の足元を眺めている。


「貴方が食べ物屋を始めたら、ニコ・ゴリさんは対抗できません」

「ああ、ニコは略称だったんだ」


 それは買いかぶり過ぎな考えだと思う一方、ズバリな側面もあった。洋次は、登山からの繋がりでサバイバル経験を活かして大量の鳥を捕獲した。そして、道具らしい道具を持たないで、あっという間に小銭を手に入れていた。洋次が商売を継続した場合、ニコ・ゴリ氏の行き先は、ほぼ決定的なんだな。


「ニコ・ゴリさんはかてません」

 商売は生き残りゲームだし、生存競争だ。

 なんて。でも、そんなセリフは、ライフラインで最低限が保証されている世界のお話しだ。靴を履いていない町人が大半な場所で、それは期待してはいけなそうだ。


「メアリー。ニコ・ゴリさんの娘さんの名前は?」

 色彩は違ったけど、メアリーに負けない綺麗な瞳だった。でも、洋次の脳裏にあるニコ・ゴリ、食べ物屋の娘さんの目はそう思い込んだせいか暗く沈んでいた記憶しかない。

「アンです」

 ああ。それはまたよりによって。

 洋次はまたメアリーの曲線じゃなくて天空を仰いだ。


「マジ居場所がなくなるってイヤだよな」

 部活動で、学校で、生活する町、最後の砦の母親の意識から消されかかった洋次。

 奪われる辛さを知っている自分が、でもそれ以上に誰かの居場所を奪うなんて耐えられない。


「大丈夫、食べ物屋は、もうやらない」

「ありがたい」


 まるで武士言葉を言いながらメアリーが、深く頭を下げた。

 メアリーの片言ニホン語も、屈伸運動かってツッコミが入る余地なんてない。メアリーの真剣度に気迫負けしていた。


「あの、まだする?」

「して」

 ここだけ抽出すると、ヘンだ。



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