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79 牛に引かれて善光寺

 色々寄り道をしたけど、チームランスが考案製造した撹拌機の概要は、こうなる。


 鍋をセットして支える三脚。アルコールランプの三脚のバカでかいサイズを連想してもらいたい。

 三脚は学校などで昔は大量に備えてあったように水平ではなく、鍋を傾斜させている。これはアンの提案を採用で傾斜は二段階を選べる。

 肝心の攪拌は、ハンディタイプの撹拌機ミキサーの拡大版。攪拌用の刃を鍋に差し込む仕様だ。

 鍋や三脚に対して垂直に設定しているから、こちらも見た目は斜めっている。

 刃と連結している軸は、逆さにした〝し〟の字型。もしくはひっくり返した傘の柄か『?』まーくそのもの?

 足踏みを使って軸を駆動、刃を回転させて攪拌する。

 これはミキサーのような粉砕力は低い。攪拌を主にした仕様を選択した。

 アンの強い主張を父親の料理人ニコも支持したので、粉砕よりも加熱を可能にする設計を重視。


「とまぁ上出来ですけど、これはモンスターの摂食補助器具と名乗るのは微妙だなぁ」

「んだぁ?」

「これ、どう考えても業務用ですよ」

「そのつもりだったけど、マズイんか?」

「いや。その実演のシナリオを書き換えないと」

「まぁ細けぇことは気にすんなって」

 にこぽんから、ズシン。

 二回屈折しても回転する軸の出来栄えが鍛冶屋のプライドを高めたのか上機嫌なランス。そんな鍛冶屋の師匠が不機嫌になるセリフを吐く義務もない。


「感謝してます。師匠」

 電力があれば、自然に蓋付きのミキサーを作れるのにな。

 それが洋次には残念だった。


「ねぇーー。まれびとーー」

「どうしたの、アン」

 アンが質問する。

「さっきから、ナニ指あわせているの? 石ころひろったり」

「ん? ああ、これね」

 印象材。つまり歯型を採集するための素材を求めている。拾い集めも素材収集の一環だ。


「お仕事なんだよ。イグの歯を安定させたいからね」

「でも、義歯の素材は、それほど容易に入手できますか?」

「ああ」

 すっかりチーム稀人の運転手。正確には馬車の御者役になっている鍛冶屋見習いのコダチ。最近知ったんだけど、十八歳と洋次よりもずっと年上な青年だった。


「簡単に道端に落ちているとは期待してないけど、きっかけとかヒントになればなーーって。あ、コダチ、馬停めてくれる?」

「どう、どどぅ」

 しなやかに鞭が空打ちされ馬車は停車する。


「えーー。まれびとーー早くハリスに行こうよ」

 どうもサラージュから他所への冒険も二回目は新鮮味や感動がなくなるらしい。


「アン。これも大事なことなんだから」

「えーー」と車内で飛び跳ねている。

「フォローありがとうございます」

 どうも年上だと知ってしまったからコダチにタメ口が利けない。


「ねぇねぇ石投げするの?」

「投げ? 危ないなぁ」

「やはいチキュウでは投げないんですか?」

「あ、いや。『剣と魔法』の世界じゃ投石は日常なんだよなぁ。あーあーー」

 日本の子供は、ディスプレイに映るモンスターだけしかあり得ない。でも、生きて食べて死ぬのが本物なんだと実感する。


「確かに、これじゃあ石屋さんだ」

 ってか鉱物マニア。


「ねぇねぇまれびとーー」

「アン。稀人様って言わなきゃダメだぞ」

「まぁ稀人様ですか」

「メアリー」

 ほほほと書き文字でも入れたくなるようなメアリーの笑い。カミーラだけの専科だと思っていた白い手袋は女性の嗜みらしいです、はい。


「それはそれはきっと偉い方なんですねぇ」

「えーーまれびと、えらいのーー?」

「おい、アン。メアリーさん」

 もはやコダチだけが援軍だとは。


「それで、アン。なんだい?」

「さっきから指でナニコネコネしてるの?」

「ああ? 歯型を採取する印象材を探しているんだ」

「いんしょーー?」

「歯型をとれれば義歯や入れ歯がつくれるからね」

「ふーーん」

 わかっちゃいないよな。アンどころか、メアリーもカミーラも、コダチでさえも。だって今まで歯医者なんてなかったんだから。


「うー。一度、ホーローに総入れ歯のモデルでもつくってもらおうか」

 小学生の時、校医だったか外来の歯医者だったか。虫歯ゼロキャンペーンでサイズ的にはワニか象──ワニは牙がメインだし定期的に生え変わるし、象は草食だからモデルには使えない──みたいな巨大な歯型とデッキブラシみたいな歯ブラシを見せられた記憶がある。


「あれは歯磨きのやり方とかだったような」

「歯磨きですか?」

「まあね。でもこんな自分が啓蒙キャンペーンしちゃっていいのかな」

「だからーー」

 そう言えばアンの最初からの質問に答えていなかった。


「ああ。印象材をね。柔らかいけど、ぐにゃってしていない。それでいて腐らないか腐りにくくてサラージュで簡単に手に入る物がいいんだけど」

「煮こごりは? お肉とか煮るとできるよ」

「悪くないんだけど、あれは熱に弱そうだからな」

「洋次」

「なにメアリー?」

 驚いた顔のメアリー。その隣には、今までの会話をほとんど理解していないカミーラ。


「いえ。失礼しました」

「いや、アイデアはどんどんとウエルカムなんだよ。ヒントとかにね」

「『ぜんごうじ』ですか?」

「え?」


 牛に引かれて善光寺。

 それは日本のことわざだ。この発言はメアリーが何人も稀人と接触した証拠でもある。



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