77 エルフは森にいます
「そりゃ綺麗で」
「エルフは森にいます。でも人、ヒューマン族や別種族と共存しているエルフもいます」
「ああ。そうですね、メアリーみたいに」
「私たちが最近では普通にエルフ。エルフ族本来の生活を知っていると町エルフと表現や区別します」
「それなら森に留まってるエルフは森エルフだね」
あれ。メアリーのサファイアみたいな瞳が曇った気がする。
失言したか?
「伝統的な生活をしているエルフを、真実エルフと区別します」
「トゥルー? それじゃあ差別化しているみたいだ」
「でも、そうなんです。私だって」
「あのさ」
メアリーは震えている。そして洋次から視線をハズした。
「私だって」
その先は聞くべきじゃない。言わせちゃいけない。
いつかは知る事実本音かも。だからって今きくべきじゃない。そう洋次は判断した。
「それで、エルフがどうしたの? もっと聞かせてよ」
「あ、ああ!」
目が瞳がいつも以上に輝いていた潤んでいた。
「失礼しました。そのエルフは自然のままが一番だと信じています」
「らしいね。地球のエルフ像もそれに近いよ」
「でも無意味に地球人を好きにはなりませんよ。えろくもないです」
「エロねぇ」
世界遺産ならぬ青春遺産に認定したい巨峰連山の持ち主がエロを否定しても説得力ないし。
「ですから自力で生きられない家畜や使役モンスターは死ぬしか道はなかったんです」
「まぁ地球だって軍馬や家畜以外の獣医の普及浸透は最近だから」
「死ぬしかなかった動物やモンスターに活路を与えた。エルフとしては洋次、貴方は衝撃的です」
「それは、違う意味で」
「それ以外の意味なんてありません」
「すみません」
大陸横断鉄道だってメアリーよりはクネクネ、折れ曲がったりしているだろうさ。
「それが私と姉の違いだったのかも」
「お姉さんと?」
「トゥルーエルフの巫女をしています」
「へぇ。そっか職業姉妹だね」
それは──。
巫女の翻訳違いだったのかも。洋次は神職神官の補佐。正直、エロ系のレギュラーキャラの巫女のイメージでメアリーの伝える巫女を解釈していた。
メアリーの姉が務める巫女は、そんな軽い役目じゃなかったんだけど。
「ええタイヘンな仕事です」
「それはメアリーだって同じでしょ? 稀人がもう少しキレ者なら楽できるのに」
「それは言わないでおきます」
「あ、言ったも同然じゃない」
「そうでしょうか。あ、寒っ」
「ああ。もう秋口だから夜は冷えるよな」
「そのようですね」
ぶるると身体を動かすメアリーの震度二。
「そ。じゃあもう暗くなりかけてるし、帰る?」
「え?」
「ほら、暗くなると松明使わなきゃだからさ」
「ああ、お金や魔力を使います」
「ね? それにコチがむずむずしてる眠いんじゃないのかな」
実際は困惑しているのかな。眉をゲジゲジにしてメアリーの足元でうろうろしているんだけど。
「はい。実体がないはずの精霊なんですけどね」
メアリーも察してくれたんだ、きっと。
「そのポーズ」
メアリーが両手を広げるとコチ、東風の精霊の幼生体はふわりと浮かんだ。相性か原因は不明だけど、人によっえ見えたり見えないらしい。どうしてだか洋次にはメアリーの周囲にいる四人の精霊全てが鮮明に識別できている。
「見えない人には」
「オカシな娘でしょう?」
「いや」
角度的には洋次に〝いらっしゃい〟している。魅惑的なボディをノーガードで見せる、もろ誘っているポーズだ。
「それでは。身勝手な日暮れ前の訪問、失礼致しました。これにて」
「おやすみなさい」
浮遊しているコチにバイバイを返しながら通用口の扉を閉める。
その寸前。
「洋次様、感謝してます。あ、あの」
「うん。おやすみ。寝れば疲れも取れるさ」
「そう。ですね。失礼致します」
ぱたん。それから塔内は沈黙の間になった。けど塔の主人が沈黙を破る。
「で。オチみたいに頭上で狙っているのは禁止だぞバンシー」
(ふ、ふーーん)
一陣だけ寒風が吹いた。




