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76 エルフって、どんなイメージでしたか?

「マジにもなるよね。カミーラについてだから」

「ええ」

「お茶とかなくて申し訳ないけど」

 洋次は、まだ椅子を引く際微かな摩擦音を発生させている。でもメアリーは違う。


「こちらこそ。お仕事でお疲れ」

「それはお互いまさ。で、カミーラ姫、お嬢様?」

「どちらでもお好きなように」

「あの。メアリーが本気で心配しているのがわかるけど、心配しなくていいよ」

「え?」

 一言毎に豊穣の金。陽光を蓄えた穀物が微風にたなびくようにサラサラしたメアリーの金髪が動く。

 髪の毛が金なら眉も金。それにサファイアにたいな透き通った瞳。


「メアリーは兄弟は?」

「あの。故郷、実家に姉、が」

「そ。確かカミーラちゃんは一人っ子だったよね。少しだけワルキュラ家やサラージュの勉強会は実施したから」

「はい。先代様であらせられるブラム閣下は姫のお誕生前に卒去遊ばされまして」

「そっきょ?」

「あの。これは私が最初に接した稀人様から教わったのですけど、伯爵位の亡くなる表現だとか」

 崩御から薨御、薨去、卒去に最後は何もつかない死。

 昔の日本だって人様の死にも格付けしていたんですよ。


「そうですか。お母様も?」

「産後の肥立ちが悪かったそうで、姫をご出産間もなく。ですから」

「ああ、カミーラちゃんは修道院に在籍してたんだったね。だからなんだと思います」

「思う?」

 ちょっと怪訝けげんなメアリー。だって肝心の本題に触れる前に洋次が結論っぽい物言いをしているんだから。


「カミーラちゃんさ、男慣れしていないんだよ、多分」

「男」

「父親。そしてお兄さん、かな。どっちもカミーラちゃんは知らない。修道院じゃ男っけがないから免疫もないし、逆に理想像が膨らんでいる」

「膨らむ?」

「私が理想に叶うとは勘違いしていないけど、一応囁ささやかにサラージュの財政健全化に成功しれいるっぽいし」

「三名でも就職すれば、現在のサラージュには救いです。その、細工師さんと、か」

「ホーローさんね」

 どうもお互い相性が悪いらしい。王都で修行したらしい細工師のホーローもメアリーを煙たがっている気配があった。嫌う、までじゃなくても。


「兄も妹も、現実はそんないいもんじゃないらしいけどね。私も一人っ子だけど」

「あの洋次は? 姫とは?」

「ここで曖昧なんだね。そりゃ嫌われるよりは好かれたいですよ」

 メアリーにもねってのは現在封印します。


「お父さんは亡くなったけどちゃんと居た。でも、兄に関しては永久に手に入れられないから、憧れちゃうんだと思います」

「兄」

「そ。兄。兄妹ならそれ以上はナシ。とりあえず、それで行きましょう」

「それで宜しいのですか?」

「んーーっと。ミキサー起業が軌道に乗って、本業の『モンスターの歯医者さん』も順調になったら、その色々考えるよ」

「それを願います。あの、もう一ついいですか?」

「どうぞ。でも襟を質すような質問?」

 妄想していいのか。妄想が現実になっちゃうのか。


「どうぞ」

「あ、あのお茶なら淹れましょうか?」

「それが質問?」

 心の中でコケるか、ひな壇芸人みたいにおぃおぃとツッコんでます。


「あの、私エルフです」

「はい」

「エルフって、どんなイメージでしたか?」

「それは?」

 メアリーの返答の後に、ご趣味とか質問すべきなんだろうか。ドキドキがとても激しくて辛抱たまらんっ。



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