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73 カミーラが必要なんです

「なぜですか!」

「なぜです、稀人洋次」

「信用です。商品の品質と安全に対する。大陸で、オルキアで初めて登場したミキサー。例え稀人が関係していても、使うのはオルキアの住民。オルキアの住民にとって唯店先に放置されたミキサーと実演してメリットデメリットを解説したミキサーどちらが信用され売れると思いますか」

「それは」

「その実演を令嬢レディカミーラが為さる」

わたくしが。正直お料理はメアリー任せですけど」

「だから反対してます」

「だからカミーラが必要なんです」

「必要」

 口をあんぐりしたメアリー。

「必要」

 まさかの勘違いしてね? 白磁より白い頬がほのかピンクなカミーラ。


「稀人の開発。品質を次期伯爵が保証して危険性も指摘。それなら買っても安心だと納得。だから売れる」。そう期待しています」

 この先にはミキサーから発生する経済効果。売上げと雇用の促進がある。賢明なメアリーにはこの簡単な図式が読み解けるはずだ。


「ハリス領のハリスの町は結構交通量が多い主要街道、宿場町だとか。通過する人も含めた人口はどの程度ですか」

「通過する頭数などの統計はありません。残念ですけど人口などは比べ物にならないのは事実です」

「ごめんなさい。領主の力不足で」

 カミーラが頭を下げる。ふわさらっとしたロングヘアが波打って、これだけでもご飯十杯気分だ。


「稀人様」

 カミーラやメアリーを責めたりイジめるつもりなんかない。


「今少ないのなら、増やしましょう」

「だから、ですか。わかりました」

「令嬢」

 メアリー陥落目前。


「え?」

 主人のカミーラから離れてつかつかと接近するメアリーの掌。なんか頂戴の形なんですけど。


「それは?」

「せんでんの事細かな文言、仕草を列記なさい。家令補佐が充分に身長に吟味して許認可を下します」

「そう、助かるよ」

「後。令嬢の御足労を願うのです。こうこくの人選も家令補佐わたしがします。宜し?」

「もちろんさ」

「では稀人様は治療の本業に専念あそばせ」

「は?」

 恥ずかしい姿を洋次に見せたくないのかな、それ。


「メアリー。私は洋次と同行を希望します。それに私と同行なら洋次のサラージュからの移動を許可します」

「ではそのように」

 悪いけどドサクサで承認をゲットしてしまおう。


「実際、カミーラとメアリーにアン。後は御者と護衛で二人も参加すれば事足りるんです」

 御者と護衛は兼任できる。アンは客室、洋次は御者の隣に座れば馬車一台。必要経費も抑えられる計算をしている。


「では其の様に。メアリー家令補佐。問題や障害があるのは承知しています」

 とまあ、ココまでは次期領主なんだよなぁ。


「それに必要とされましたから」

「令嬢」

 あ、メアリーが硬直している。ってことは怒ってもいるんだな。


「御心のままに」

「配慮感謝します。でもサラージュの〝こよう〟が確保されるなら洋次の」

「あの、そんなに見つめられると」

「稀人様の指示にしたがいましょう。最低限メアリーも協力を期待します」

「御意」


 さすが家令補佐だ。さっきまで高揚して赤ら顔、赤いボディだったメアリーはいつもの色白肌に戻っている。


「では稀人様」

 キリリって看板を背負ったメアリー、再度お頂戴のポーズ。


「こうこくの筋立て、もしくは〝かし〟をお聞かせください。もう素案は仕上がっているのでしょう? 下書き試し書きで良いですから拝見したいのですけど」

「うんうん、さすがメアリー」

 その巨峰はダテじゃない。


「紙は貴重だかし石板じゃ文字不足だから、粗筋を」

「はい、お芝居ですか」

 くすりと笑うカミーラは十二歳の実年齢よりも幼く感じる。とても可愛いんだけど。


「歯が悪いモンスターと老人の役がいます。これはお面で代用します」

「お面? お祭りなどで使用する?」

「はい。身長からモンスターはアン。老人は私の予定ですけど、メアリーや姫の一人二役も考えて」

「最小限に!」

 厳しい注文だけど、貴族の令嬢を芝居に動員する洋次が異例なんだろう。貴族や身分社会ってのは現代日本人には面倒な仕組みなんだ。


「そこでミキサーが必要だと解説します」

 洋次とメアリーの交渉とカミーラの同意や質問を要約すると、こうなる。


 ミキサーが〝歯が弱った・失ったモンスター〟に必要だと知らしめる。

 ミキサーの使用方法とミキサー食の利点を説明。もちろん欠点であり留意点も告知。

 ミキサーの使用上の注意点、メンテナンスの必要を解説。

 ミキサー食でモンスターの寿命が延びる利点を強調する。ついでにモンスターだけじゃなくて歯の大事さを伝える。

 ミキサーが〝大量のモンスター〟の食事の制作にも便利だと告知。

 蛇足としてミキサーはサラージュの稀人の独占開発だと宣言する。

 これらをお芝居風にハリスの街道沿いで実演する。



「これが成功するとサラージュは結構豊かになります」

「どのくらいですか?」

「ぎょう、失礼。多数モンスター用のミキサーが不確定なんですけど通常ミキサーならランスさんは十人単位の雇用を必要とします。ぎょ、大型ミキサーが試算の八分でも」

 いえいえ。メアリーは首を振った。


「大型は計算からハズしましょう。でも、仕事は増える。そう解釈して宜しいですか?」

「あの、低レベルで申し訳ないんですけど、ランスさんからお弁当の発注が増えたってアンが」

「わかりました」

「では私も協力します。いえ協力したいです、メアリー」

「令嬢」

 一度カミーラをじっと見つめてから洋次の正面に向き直るメアリー。



 ミキサーでここまで話しをするのは想定外でしたけど、これはこれで悪くない選択だった気がします。


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