72 こうこくとは?
「えーーっと。聞いてます、メアリー?」
バナト大陸の一部、オルキア王国のサラージュ伯爵領。その名もサラージュ城の謁見の間。
「「メアリー?」」
サラージュ城サラージュ領と伯爵位の次期相続者がワルキュラ・カミーラ。カミーラ嬢とか姫様と呼ぶかわいい女の子と洋次がハモる。
「お忘れですか、稀人」
バナト、オルキア。もうおわかりだろうけど、洋次は異世界に転移してしまった高校生だ。バナトでは異世界人を稀人として優遇している。免税とか無資格開業すらオッケーなトンでも優遇特典を利用して洋次は『モンスターの歯医者さん』を宣言した。
「ワルキュラ家は伯爵家。カミーラ様はその爵位を継承するお立場」
「だから、効果的じゃ、ない、かと、ね?」
「洋次の手助けなら」
「なりませぬ令嬢」
「だから、サラージュだけじゃ販売は頭打ちだから」
「ハリス領とカーバラ領で販売したではないですか」
「まぁスゴい。メアリー、洋次はとてもスゴいです」
ぱちぱち。白い手袋が重なる微妙な乾いた音がする。
「凄くても不許可は不許可です」
「でも、結局サラージュとハリス、カーバラだけでは限界があるから。ミキサーは充分販売が期待できるんだし」
「それでも不許可です」
ミキサー。洋次の目的に限定すれば、食品の粉砕撹拌機のことだ。
「都合三人がサラージュで仕事に就いた点は感謝しています。だからと言ってです」
「メアリー。どうして不許可ですか? サラージュ領の稀人がサラージュの住民と協力した商品を販売するために私も協力するのは当たり前でしょう」
「令嬢」
「あ、ぷるぷるしてる」
小声で洋次。震度ゼロのメアリー。
「令嬢にはお伝えしませんでしたが、〝こうこく〟とは」
「震度。に?」
肩が。腕が。そんなんじゃない! 双子の巨峰が震えている。
「とても! はずかしい! です!」
「ああ、あれか」
「ひゃすれていたんでで、すか!」
メアリー震度三プラスでカミカミ。
「亀裂とその緊急対策のミキサー製造、ミーナーの治療作戦でスッカリ忘れていたんだ。悪気はないんだよ。ゴメン」
「忘れて!」
「メアリー、洋次。説明を求めます」
次期伯爵。まだ伯爵じゃないけど少しは権限があるからメアリーはもじもじしている。立場上説明しなきゃなんだけど、したくない。そんな感じだ。
「あの、『モンスターの歯医者さん』を広告。つまりたくさんの人に知らしめる協力をメアリーに頼みました。ミーナー嬢の治療やミキサーが売れたのも、メアリーの尽力の成果です」
もじもじしているメアリーを通過して洋次が説明します。
「もう、あんな恥ずかしい真似ぇ」
メアリーの白い肌がピンクを通過して真実真っ赤に染まっている。
「こうこくをわたしも協力するのですか?」
「ゼッタイダメです!」
間髪入れずキョヒる。このゼッタイ的保護遺産な巨峰のメアリーはメイドだけどメイドだけじゃない。
「家令補佐として許可を与えられません」
家令。見た目や接客などの華やかな執事よりもご主人様に踏み込んだ地位。会社の役員とか取締役の立場になる。
「でも」
「こうこく以外の選択はないのですか?」
「売るだけだったらアンを借り出せば充分です。でも」
「ですから」
「メアリー、洋次はサラージュのために考えています。だから落ち着いて」
「申し訳ございません令嬢」
片膝を床に密着させて拝礼──胸に手を当ててお辞儀をする、あれだ──する。
「ミキサーは、機械は便利な分危ないんです。私はミキサーを思い出した」
開発者とは僭称は、つけない。
「思い出したからミキサーで事故が発生させたくないんです。それには実演が一番だと」
「じつえん? こうこくとまた別の言葉ですね?」
「そんな。新しい辱めなんて」
「そんな恥ずかしいかなぁ」
CMソングを恥ずかしいと感じるセカイ観だと恥ずかしいだろうよ、きっと。でも、洋次はメアリーの歌声をみいた時、自分のアイデアをホメてもいたけど、懐かしくて嬉しかった。
でも、それをどう表現していいのかがわからないのが悔しい。
「では、こう考えて頂けますか」
「詭弁ですか」
「厳しいなぁメアリー。サラージュの子供たちとの交流会と商品広告と説明会を兼ねて実施。その後はハリスでも実演する」
「ですからね。もしもし洋次様」
敬称をのっけたのは、謁見の間って場所とお話しの内容が内容だから。いつもは呼び捨てにされている洋次。
「他の女性を動員すればいいではないですか。細工師のホーローさんとか」
「あー。彼女はイメージは、イメージだと役者向きじゃないんだよね。失礼、適役ではないですね」
「人口減少していてもサラージュには、こうこくをする女性はたくさん居住しています」
「あ」
どうも自分が第一号になったせいかメアリーは広告は女性限定だと勘違いしている。
「ですからカミーラにご出馬願いたいんです」




