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66 カーバラのミーナー嬢


 母親の馬車と逆に時間を間違えたと疑うくらいノンビリとライジン族のお嬢様、ミーナーの馬車が到着。彼女はカーバラを含む数箇所の代官に任命されているコンラッドの診たてでは虫歯らしい。


「お初です、ワルキュラ・カミーラ次期伯爵殿下」

「こちらこそよろしく、カンコー・ヴィルヘルミナ殿下」

 あ、ミーナってそんな難しそうな名前の愛称だったんだ。


 最初はイグーじゃなくてサラージュ側はメアリー──超ド級のナイスバディメイドのメアリーは女中メイド頭に兼任して家令補佐も勤めているので、無問題。

 一方カーバラ側は老齢の女中頭の応答で始まる。なんでもカーバラの女中頭は、中央に公認された役職らしい。貴族社会も面倒くさいのか、それはそれで合理的なのか。


「では、こちらに」


 洋次は、石板の裏側でスタンバイ。ミーナーが着席するタイミングを待つ。


「……」

「それでは」


 長い貴族のお嬢様たちのお喋りをガマンしてようやく御着席の次第。


「まぁ素敵な大理石のテーブル」

「主催のペネ様は……」


 またお喋り。


「では、ほど良い湯が沸きまして。どうぞお席に」

 ほんの僅かだけどお茶会会場の下草を踏む足音、そして消えたサクサク音。


(洋次)(ああ、やっとだ)


「失礼致します」


 壁を、石板を動かす人夫役は、かなり緊張を失っている。


〝大丈夫なんでしょうね?〟


 予め会場の仕切り板にもなっている石板裏に配置されたワゴンをメアリーとカーバラの女中頭が運搬する。


「こちらは?」

 事前情報だとミーナーは十三歳。カミーラとは一個上。お嬢様同士の会話だと、極普通のイメージだ。


当家ワルキュラの既知が勧めるお茶です。〝りょく・ちゃ〟だそうです」

「まぁ鮮やかな緑色。緑茶なら一度嗜みましてよ」

 喉を潤し、ミーナーの腰と気持ちを落ち着かせるための緑茶だ。洋次以前の稀人が普及させたのか、オルキアでも入手は困難じゃなかった点とミーナーが拒絶しなかったのは幸運だ。


「温めが良いですわね」

「あらカンコー嬢、如何されまして?」

「ミーナーと呼んでくださいませ。いえ、私個人のワガママでして。お気になさらないで」


(ふぅ)……」

「ため息つかないでください、コンラッド」

「出番、ですか?」


 メアリーたちが運んだのとは別のワゴンに載った|治療器具《本日のメインディッシュ》を片手に。

 そこそこ高級なレストランなどで給仕が遂行するスタイルで洋次、コンラッドが道具を会場に運ぶ。


「行きますよ」、「うむ」

 カミーラたちとは足音が明瞭に増加している。気張っているんだな、こいつら。


「コンラッド、まぁ」

 カミーラは会釈しただけ。


「コンラッド、王都から派遣された代官たる貴方が給仕の真似とは如何なる趣向です?」

 少し、頬が腫れている。医者だけじゃなくて代官もビリビリ撃退してしまったから虫歯が相当進行しているかも。だとすると治療の範囲じゃない可能性は高まっている。


「失礼、まずこのお方は」

 コンラッドと揃ってお盆を持っている洋次。

 大理石のテーブル、お盆。そして緑茶は焼き物の茶碗。これらは全て被金属製品。つまりライジン対策のアイテムだ。


「緑茶を提供いたします稀人の洋次と申します」

 お茶の作法としては元々てーぶるは×なのかも。でも、それは現地アレンジで許容してもらいましょう。


「まぁ緑茶は久しぶりです。そうですか、サラージュに稀人が」

「今後お見知りおきを」

「お茶のお代わりですか、それとも」

「失礼」

「カミーラ様、お化粧直しならばこちらに」

 カミーラとメアリー、カーバラの女中頭が退場する。



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