64 作戦開始
「さて。作戦準備は上々だね」
「「洋次」」
サラージュ陣営からの疑問符の大行列。
「これは?」
「普通のお茶会ではないですか?」
洋次を中心に罠が円形に布陣している。でも、種と仕掛けを知らないと甘い罠だとは悟れない。
「そうですよ。新郎のご家族と打ち合わせで、簡単なお茶会の下準備してもらいました」
「ですが」
「はい。作戦開始の前に疑問は払拭しちゃいましょう」
あれあらあれ。どうやら以前の代官たちと考えが変わらないようだ。それじゃあ結末もコピペだから、お嬢様治療の寸劇のキャストに台本の説明をしましょう。
「同じ戦法を繰り返しても先任代官たちと枕を並べるハメになります」
「ぁぁ」
メアリーが少しだけ目線を上げた。どうやら昔の稀人から、この慣用句を聞いていたんだ。
「まぁ私個人はそう希望しますけど、今日以降も患者患畜が来れば〝歯医者なんてヤダ〟ってトラブルは続出します。だからお茶会です」
「一々お客にお茶会を催すのですか?」
「メアリー財政には厳しいね。でもさ、今回アンリ嬢は結婚式の祝辞とお茶会に誘われたんでしょ? ならウソはついちゃダメだから」
「それは治療が済んでからでは?」
「コンラッド、私の発案では治療とお茶会を兼ねてます。幸い新郎のご家庭はそこそこの経済力なので大道具小道具の貸出は簡単でした。さすが医師の娘の嫁ぎ先です」
「まぁ洋次」
祈る仕草と同じで指を組んでいるカミーラ。
「それはどんな魔術でしょうか」
「いや、お茶飲みながら治療するんじゃないです」
雷撃で医師や代官たちをノックアウト。治療をキョヒってるワガママ娘は、自分の雷撃に頼っている過信しているはずだ。
「つまりライジンを」
「火系も使えない洋次が無効化なんて」
「はい、大丈夫。だからお茶会です」
親指立てて『イイね』をしたかったけど、オルキアのボディランゲージが違うと困るから中止。細工師のホーロが実証しているんだから。
「という訳で」
しかし時々、ド庶民の地が出てしまう洋次と違ってコダチたちは沈黙を守っている。大したもんだよなぁ。洋次の目配せを待っていたように質問タイム。
「では、洋次。私たちは?」
「アンはどーーするのーー?」
「うん」、一度頷く。
「アンは結婚式披露会のお食事の準備の一員。ランス以下のサラージュ青年隊が実は作戦の重要な鍵なんだ」
「はぁ」
洋次はお茶会の大型テーブルを囲う石板をこつんと叩く。
「コダチ。正直私はコンラッドの指摘通りライジンを被弾していない。実際どんなダメージなの?」
「それは」
顎に手を添えて悩むコダチ。
「一般的ではなく、件のミーナー様について解説致します」
その一般的を洋次は知らないのだけどね。
「まず、ライジンは通常放射の魔法です。ですが、ミーナー様のライジンは弓矢のように飛来します。ですから射程が長く、強力です」
「ふぅん。そのライジンを今まで正面から受け止めていたの?」
「反呪文を詠唱したり魔法護符を幾つも携帯した手法など全て失敗でした」
「まぁ魔法護符って高いのに」
「金銭にシビアだねぇメアリー」
二度挑戦して失敗すればその作戦は間違っていると考えないのだろうか。
「まぁ確か日本だって明治の直前に」
安政のコレラ。コレラが大流行したけど、庶民は神社などに祈祷して御札やご利益があるとされる狼の遺骸を争って買っていた。ニホンオオカミの絶滅を加速させたのは、現在パワースポットで著名な神社が背景に潜んでいる事実は意図的に伏せられている。
「三峯神社の狼殺しって有名だもんな」
回答を知っている意地悪。もっと突っ込むと下衆な知識自慢には、コレラ菌の対策をしない当時の日本人は滑稽だろう。まるで煮えたぎる鍋に生きたまま放り込まれた鶏の土壇場を見物している悪役たちと大差がないんだから。
「では、正門から何度も何度も呼びかけても、開けてくれないお嬢様の扉を開きましょう。裏口から」
「それが、この石板なのですか?」
「そ。これ」
ストーンサークルのようにお茶会の席を包囲する石板の中心でニンマリと笑う。
もうお分かりだろうけど、洋次は石板を絶縁の檻にするのだ。石板ならライジン、つまり電流を通さないんだから。
「さすがに新郎さんの家だけじゃ足りないからサラージュからも持参しました」
「これの装飾は私が発案しましたの」
石板に白いクロスを掛けて、洋次ではつくり方折り方がわからない布のお花を飾って折々の花などを誂えたのはカミーラの設計だ。
「あくまでもお茶会の大道具だから、貴族のお嬢様を納得させるには貴族のカミーラ姫のご意見を採用するのが一番ムダがないんだよ」
「あのね、アンは犬とか猫とかの絵もあると楽しいと思うよ」
「それは今度ね。じゃあアンはお料理手伝ってね」
「ははーーい」
石板絶縁作戦でも流れ弾の恐れは否定できない。だからアンには戦場から離脱させる。




