62 お茶会よりも
「お嬢様同士の席に稀人でも男がいてはねぇ。さっき〝偶然聞いたんですけど〟カーバラのミーナーさんが誰も誘ってもらえないとか」
「ああ、ミーナー。ミネルヴァ様ですね。確かご身分は騎士でした」
爵位貴族ではないけど立派に貴族階級のお嬢様、お姫様なり。
「そうですか」
でも、そのレベルにプラス年齢などはコンラッドから入手済みでした。
「私は十二歳になるまで王都郊外の修道院に在籍していましたから、ミーナー様とは面識もなくて」
残念な素振りを見せてはイケナイ。それに最低限の情報、洋次の宿主であるカミーラの情報が飛び込んだのだから悪い対面式じゃない。
「でもミーナー姫も十四歳。お茶会なんで悪くな」
「悪いです」
「メアリー、きっぱりだねぇ」
「サラージュでお茶会を開催するんですか?」
「ああ、そうだね」
お茶会の手配。ワルキュラ家の体面を保つセッティングのための費用もバカにならない。即拒否も仕方ない。
「そこで、うまい具合の条件が揃っていまして」
「はい」
頷きで合図をする。すすすとメアリーが謁見の間の内扉のドアノッカーを叩く。重厚な扉が案外楽々と開放された。
「失礼致します。王国準一級代官、コンラッド・タッカーと申します」
これが正しい謁見の作法なんだな。
足運びも動作も流れるようにコンラッドはカミーラに接近する。
「噂は王都でもサラージュでも」
カミーラも自然に手を差し延ばす。そうか、コンラッドって大物なんだ。
「光栄至極」とカミーラの掌に──白い手袋越しだけど──キスするコンラッド。
上位階級の対面の作法が終わってカミーラは洋次に質問タイムに突入する。なお、作戦はほぼシナリオ通り進行中だ。
「実はお茶会よりも面白くミーナー姫を誘い出す作戦がありまして」
「誘う? 面白いのですか、洋次。メアリー?」
「は。失礼致します」
おカタい代官。ま、代官って公務員だもんな。
「つまり、ミーナー嬢を医師と対面させるだけでも、既に負傷者が続出でして」
「まぁ。それで、洋次に?」
「はい」
以下、コンラッドがカミーラにお辞儀を返す云々は省略。
「予め稀人と打ち合わせは終了しております。仕上げとしてサラージュ伯後継者としてのカミーラ様のご了承と」
「「と?」」
洋次と一緒にコンラッドも面会させるだけしかメアリーには伝えていない。
「ご協力賜りたいと」
「〝今回の作戦〟については、もうコンラッド氏の協力は確認済みです。カミーラ姫、メアリーメイド頭」
「それは?」
カクンの効果音が聞こえそうなカミーラの首傾げ。
「女の子がお茶会より楽しそうと来れば結婚式でしょう?」
「まぁ素敵。どなたとどなたが?」
「姫様」
背負っている疑問符を一本背負いで彼方に飛ばしたカミーラ。やはり結婚式は参加だけでも楽しいイベントだ。
「まさか」
もしかして勘違いしてる?
「メアリー、そんな怖い顔禁止。忘れたの? サラージュで結婚式を挙げられる人って少ないと思うけど」
結婚式イコール秋祭り、年の大祭りの図式が構築されるくらいの重大イベントを実施可能な階級。
「あ、医師のトマさんのお嬢さん、がが? 明後日?」
微妙にカンだのはスルーしましょう。
「ででも洋次。トマ先生のお嬢さん、アンリさんはサラージュではなく嫁ぎ先でお式を」
「そこなんだ。これはプラスマイナスの両方がある、そうだよね?」
カミーラは洋次をサラージュから出てはいけないと命じている。実際は稀人への拘束力は、ほぼゼロ。でも洋次も約束したからギリギリ守れるなら守りたい。
「今回、ミーナー嬢の治療だけじゃなくて、サラージュの新規産業の大切な第一歩にもなります」
「「サラージュの産業?」」
「そう。メアリーが期待している。そこで」




