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06 どろぼう


「さてと」

 ニンゲン、いや生命体は生きてゆくためには食わなければならない。言葉が通じる期待はしていないし、もし会話が成立して働かせてくれてもお給料まで持たない。ブラックどころか暗黒企業に勤めていても転職しない、できない理由もきっとよく似ているんだろう。

 住み込み三食付きの仕事を探すより手っ取り早い技を習得していれば、行動は一つに絞られる。


 自分の栄養は自力で確保だ。


「で、ワナ作成と参りましょう」

 リュックのサバイバルナイフを奪われたのは、洋次には致命的な問題にはならない。実戦が早まっただけで、サバイバル登山の経験を活かせる場遭遇して、内心ワクワク感もある。


「ははん。石包丁って由緒正しい道具があるのさ」

 古式懐ゆかしいじゃないのか。サバイバル登山では、第二段階として道具の持ち込みすらしない。石包丁は既に現場での自作経験済みだったのだ。


「誰かさんの畑だと面倒だから、ほら荒地があるし」


 どんなに拡大解釈しても穀物野菜畑じゃない荒地に到達する。都合よく樹木だって疎らだけど生えている。資材が豊富なここが作業場になります。


「地球のサバイバーの実力、見せたるぜ。まず、一番手軽な鳥の罠の製作、骨組みだ」


 荒れ地を検索。すると、木の棒がずらりと並んでいるのを発見。


「お、お、俺くらいの中級者になると、探しただけで罠の資材が」

 どうしてか見つかった。


「これを骨組みに使わせてもらいましょうかね」


 もちろん、事前に誰かが木を切り倒して放置したのだ。


「すみませーん。ちょっと使いますよ。で、棒を組み立てるためには」

 荒縄も放置されていた。


「どんな贈物ギフトかチートなんだ、これ?」

 当初の計画では小一時間で枠組みを製作が、たった数分で次の段階に移行してしまった。


「今は飢え死回避が一番なんだ。それに、解体して返却すれば無問題、だよな?」

 

 改めて罠用の樹木をチェック。

 何本かの木々に、〝噛んだ〟ような樹皮が剥がれた形跡がある。でも、噛み倒していない。ハンパ作業だ。


「ふぅん。これも異世界流かな?」

 一応自分が立っている荒れ地をキョロキョロする。

 差し当たって危険性がないと判断したので、鳥罠製作に復帰しました。


「理想は網とか木綿糸なんだけどさ」

 異世界ツリーだから名称は知らない。でも、放置されていた樹木のすぐ近くにトゲトゲな枝葉が、既に山積みされている。


「これなら超簡単だな。今日から登山した山ギャルでも罠が張れるぞ」


 こうして洋次は異世界狩人ハンターの経験値を、ほとんど貯められなかった。

 いや、完全天然素材のワナはいい仕事をした。一石二鳥なんてレベルじゃない、一網打尽のお手本テキストのように野鳥を大量捕獲。さらに鳥頭。鳥は三歩で忘れるってのは異世界でも有効な格言だと証明。

 と、ここまでは順調だった。いや、もう少し先までか。


 荒地から町に戻る。目標は商店地区からは離れた拓けた場所、つまり広場。大体広場って大道芸とか露店なんかの商売勝手御免って聞いた覚えがあるから、ここで銅貨一枚で鳥の焼串一本で商売を開始した。

 捕獲した鳥は既に串の代わりに太い木の枝を通しておいたし、初級サバイバーな洋次はマッチとか未所持でも着火可能。学校の体育館ほどの広場で商売を始めた。


「ん、いい匂いだな」

「焼いた鳥だけど」


 町人の反応は悪くない。ヒトに混じってエルフやドワーフが混在している町だから黒髪ポンチョの洋次でも、警戒心は低いようだ。焼きたての匂いに何人かが誘われて足を向けてくる。


 ってか町人の言葉ルキア語がわかるんだけど、最優先事項は生活の確保。だから言葉とかの質問とかは後回しにする。


「ニコのオヤジの鳥とはなんか違うな」

 全く地球でも普段会話する内容だ。本当に異世界なんだろうかと疑いと、これで現地のお金が手に入れば当面凌げる安堵感とが綯交ないまぜになっていた。


 一本どうぞ

 焼串を差し出す。これは微妙なミス。一本サービスは、過剰らしいから、小ブロックを摘んで渡す。


「ん? ちと酸っぱいがいい味だ」

「へぇ。俺にもくれよ。はむはむ。いいね、意外な新味だ。幾らだよ? 高いんか?」


 言葉はわかるんだけど、敢えて黙って人差し指を前に突き上げる。

「銅貨一枚? なら二本もらおう」

「おれ、半分はダメかい?」

 

 即席の露店は期待以上に好評。味付けの塩胡椒がなかったから野生の柚、カボスとか柑橘系の果汁を振りかけたのは巧みなアレンジだったらしい。ってかそんな小細工よりも相場、いや町の食物屋の半額な値段設定が一番の魅力だったのか、洋次は小一時間で捕まえた全ての野鳥は完売。


「よし、これで宿屋宿泊とか服らしい服を買えるな」


 ふと注目されている気配を感じた。

「あれ、女の子?」


 ニホン基準だと七、八歳の女の子だ。栗色の髪をお下げにしている、瞳の色も栗色。真剣マジには、そんな場面じゃないんだけどカワイイ系だな。それに派手な衣服ではないけど、ちゃんとした身なりだし裸足じゃない。


「えっと」

 焼き串の購入もしないし立ち去りもしない。なんだろう、屋台の買い物に抵抗感があるのかな。でも他の子供なら既に洋次の焼串の購入者はいたんだけど。


「……」

「食べる? ビタ銭一枚でもいいよ」


 無反応にじっと上目遣いで屋台どころか野良焼き鳥屋さんを凝視している。見た目はともかく、所持金キャッシュレスなのかな。


「あ、お試しに食べてみる?」

「……」


 弱ったな。いつでもどこでもどんな時代でも子供はお腹が空いていて、でも全てが豊かじゃないのだろうか。


「食べて。で、美味しかったら今度」

 ダッシュ。女の子は追突する勢いで串を握ると、全力で駆け抜けてしまった。


「ま、いいか」

 よくない。

 異世界らしい場所に前後脈絡なく〝移動〟して衣服を剥がされ、血ドバッから逃走した。実際ノビたり縮んだりしてたから忘れて、違う。考えなかったことがある。


「じゃあ完売したから。もう一度仕入れに荒れ地へ戻るか。時間的に夕食前だから、きっと売れる」


 それとも靴とナイフだけは購入しようか。なんてバイト感覚の仕入れに荒地に戻ろうとした。

「はい?」


 一人二人。広場に人が集まっていた。

「おや、これは素早く仕入れて第二弾の焼き鳥焼串を」


 どやどや。がやがや。


 人口密度が高くなっていたのは間違いないけど、あんま仲良しオーラじゃない。


「え? ええっ?」


 さっき焼串を奪った女の子も広場に戻っていた。オヤジ、食物屋のニコって名前らしい大人を同伴して。


「もしかして」

 女の子と食物屋のオヤジ、ニコは親子。とすると、睨んでいたのはモノ欲しいんじゃなくて、家業の商売仇への嫉妬、恨みだったのか。


「町人一人一発で許してもらえるかなぁ?」

 血ドバッと空腹に続いて、生命の危機を迎えてしまっていた。


「どろぼう!」

 例え異世界、小さくても女の子に罵倒されるのは辛いね。そこだけは胸がチクリとした。




 新作投稿の初日は、ここまで。


 御一読感謝です。



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