59 オリクの代官、コンラッド
モンスターの歯医者さんに付随して開始されたミキサー製作と義歯床の製作。その記念すべきお客が、しかも外部から訪れた。再々路線変更の翌日に、だ。
「オリクの代官、コンラッドと申します」
「はぁ」
洋次は、東風に案内された青年に驚いていた。
『風の便り』なる魔法系でもオルキアで宣伝活動は初めてだろう。
そんな物珍しさから、サラージュの訪問者が多数。もちろん、この時代移動の大半はウマを筆頭にした使役獣、モンスターだ。そこで低料金で──また無料だとメアリーが承知しなさそうだからね──デモンストレーションをして宣伝してもらう作戦だった。お客がお客を呼ぶ。それ以上に抜歯対応しか存在しないモンスターの歯の健康管理の意識を替えてもらう戦略もある。
「お客さん、の飼い獣ですよね」
若い。誰かに頼まれて様子見だろうか。仮りに代理人でも身なり服装も悪くない。まだオルキアの標準がサラージュとヴァンだけなんで、断定するのは危険もあるけど高位高収入の職種だと推測する。
「いえ、厳密には主人のウマです」
「厳密には? ああ、代官さんですからね」
正直代官ってなに? なんだ。洋次にとっては、代官は悪代官か代官山しか、この言葉の印象がない。そして、どのくらい偉いのかもゼンゼンだ。とりあえず年上らしいし、お客さんだから敬語対応をガンバる。
「じゃあ診察しましょう」
疑問。違和感、やり残し感。お客の目の前だから怪しんでいる素振りを抑えて尖塔から城内に。
「こちらです」
自作の柵。馬の手綱やリードを結ぶために物干し台みたいに棒を組んである。
「え? ええ」
コンラッドだけじゃなくてウマが主流の患畜だと予想はしていた。
「失礼」
うろ覚えだけど、毛艶、糞、尿その他に歯茎、歯、さらに舌が動物の健康バロメータなのは知っている。だからコンラッドの患畜、ウマが洋次の触診に暴れないのも道理だ。慣れているんだから。
「お口を拝見しますよ」
最初はウマを診察する失礼。二回目は、依頼主への前置き。
「この程度なら、そちらの馬丁や御者で十分なのでは?」
「それは、その」
あれ。お客さんがガクブルしている。でも、怒っているとか詰問のつもりじゃなかった。ツッコミとか疑問くらいだったのだけど。
「稀人様が最後の頼みの綱なのです」
「あーーー」
昨日は自分が土下座マンだったから、正直イタい。
「そんなに悪いんですか、もしも歯以外なら獣医師への転院を」
「そこを何卒」
何卒。マジ頼むわってことだ。




