58 ミキサー誰か買いませんかぁ
「入れ歯とか歯床って碗とかボールとは違って人やモンスターによって大きさとか同じものは二つとないですから」
「個々のお客さんの規格に適合させる、〝いれば〟をつくるんだね」
「はい。さすがです」
「まぁお客さんが口うるさいのは細工も医者も大差ないんだろ?」
今度は苦笑する。女性の年齢を尋ねるのは失礼だろうけど、ホーロはきっと洋次よりも経験値が高いんだろうな。
「で、問題は」
「そこなんですけど、まず」
「型どりのぉ」「支払いは前払いでね」
双方の主張の衝突。
「えっと」
「稀人はいればが欲しい。私は生活のためのお金が必要。もうワルキュラへの税金だけじゃなくてさ、物入りなんだ」
「はい」
そうだった。鍛冶屋、ミキサーの制作の要であるランスも支払いを確認している。材料費だってかかるから、決してムチャぶりじゃない。必要なんだ。
さて、難産ではあったけど進み出している洋次の『モンスターの歯医者さん』。
でも、ミキサーや義歯床を作成する費用を捻出することが先決になった。
「ドラゴン退治の旅立ちの前に靴を買ったり旅費を稼ぐハメになるとはなぁ」
黄楊の入れ歯と言うモンスターの歯医者さんへの大前進するための靴はハイレベルに割高らしい。
「ミキサーを誰か買ってくれないかなぁ。試作品割引きするんだけど。ま・さ・か・ね・」
そんな状況なら、どこかで日雇いの仕事をしようか。でも、それはどこから見ても不景気を三次元化したサラージュの住民の仕事を奪う。それは避けたい。
「ミキサー誰か買いませんかぁ」
義歯床制作の設計図を石版や脳内に刻みながら、ついついボヤいていた。
〝?〟
間借りしている尖塔内にそよ風が吹いた。
「なんだ珍しいな、東風」
〝!〟
なんだか嬉しそうに室内をぐるぐると飛び回るコチ。風の精霊だから、空中旋回なんて得意中の得意らしい。
「ん、もしかして!」
ミキサーの購入者が、来たのでは? あるいは歯医者のお客さんだろうか。
「すぐ行くぞ」




