53 そんなに偉いんだ
〝ようじ〟
どうして洋次が仮遇している尖塔で機関銃が連射されているんだろう。
「あーー。尖塔で先頭かぁぁ。こりゃいいや」
いつもなら肌寒いと感じる薄い掛布が、今朝は厚手の高級絨毯か鉄板のように思い。
「う、は〝き〝ぞう」
強制注入でも未成年飲酒の代償はヤバすぎる。筋肉が硬直しているのかダレているのか、つまり、とてもマジヤバ。
〝おきて〟
「今日は一日」
塔内で寝転がっていよう。そうだ、今までバナト大陸に、オルキアに転移してから半端じゃない忙しさだった。
〝だめ〟
「あーー。ミキサーが売れても、歯医者さんの本分じゃないんだよなぁ。でも、どうやってイグを治せばいいんだ。せめていい義歯の素材なぁ素材」
目の上に腕を載せてアイマスク。つまりどうやっても起きたくない無意識の抵抗中だ。
〝おきて〟
「だーー」
まどろみとサボりを相半ばにベットと友達化していた洋次のセカイは強風に襲来された。
日本の秋に近い気候だったから丁度いい掛布は渦を巻いて上階にフライ。髪の毛はライオンってイメージじゃなくてサイ×人みたいに一方向に尖る。なんて強風だろう。
「なななな」
ぷん。目の前に銀髪の怒りんぼさんが腕組みして酔っ払いを睨む。
「ば、北風」
〝だめでしょ〟
エルフの美少女すぎるメイドさんメアリーは、北風たちは実体肉体はないと解説した。ついでに性別もないそうだ。
でも、間違いなく洋次は強風襲来の後デコピン。北風に怒られた。
「ああ起きるよ、でもねぇ」
腕の動きが悪い。酒気帯びの寝起きだからかなと思ったら。
「あ、こ、凍ってるよぉ」
北風の精霊の、幼生体バンシー。少し本気にならば本当の吹雪を発生してしまうみたいだ。洋次は下着姿で南極の冷風、滑降風に晒されるお笑いタレント顔負けな体感したワケだ。
「これ、ゴミとか塵じゃないぞ、こ、氷だ」
そんな強い冷風でした。
「あーーー」
まだ北風は洋次のベットの脇に立っている。いつもならイタズラな風を置き地雷にして飛んでいくのに。
まるで、〝ようじが起きるまでみてるよ〟と言わんばかりだ。
「はいはい。じゃあミキサーは人任せで、来るか来ないかわからない患者さんを待ってっ! うえぁあ!」
はい、身にしみました。北風はもう一度本領発揮。十六歳高校生だった洋次の身体は宙に浮いてしまった。
「ば、ば、バンシー。待ってよ、待てストップ」
風だって真正面からくらい続けていると、マジ呼吸が苦しくなります。肩を上下させ、Orz体勢で北風の精霊に降参する。
「起きましたか。違法飲酒稀人」
「あ? メアリー!」
メアリーの低いひくーーぃ声に土下座姿勢から正座にシフト。そしたらまた一陣の風が直撃しました。
「一応ランスさんが飲ませたので全面的の叱責するつもりはないですけど」
「じゃあ」
どうして鬼気迫な三白眼なんだろう。
「稀人の多くは貴族要職に就かれているお歴々との対面も日常的です」
「ああ、そうだね」
年の差なのか、寄宿している尖塔の大元、サラージュ城の持ち主はカミーラだ。十二歳の線が細いちょっとメアリーには甘えんぼさんでも、伯爵令嬢、そして『成人の儀式』さえ実行するば正規の伯爵様なんだ。
「そんな稀人が己を律しないでどうします」
「ああ、そんなに偉いんだ」
「そうです」
ちなみに、これだけ会話をしていてもメアリーは尖塔内部には一歩もつま先すら踏み込んでいない。
扉はメアリーが開けたのか、人一人宙に浮遊させる北風が開放したのか。いや、昨晩はぐてんぐてんに酔っていたから扉閉めた覚えがない。




