49 ニコの店の常連さんらしい住民のダミ声合唱、酒臭つき第一番。ヘ短調
概念やイメージを伝えるだけの試作品なら翌日に完成した。
「では、トマ先生と」
「悪いね。獣医師と薬師兼務のドノヴァンさんは私が声かけするから」
「ふぅん。じゃあ俺は軽く引っ掛けにニコんとこだな」
「師匠」
「ランス師匠。ワザワザすみません」
また屈伸運動みたいに腰を折る。
「だから仕事の後の一杯だっつーーの」
原色が特定不可能なほど色あせた手ぬぐいで汗を拭き拭きランスは歩く。のし、のっしの効果音が一番ピッタリだ。
「師匠、ほどほどに」
「あれ、マジ一杯? ランス師匠」
「ランスでいい。じゃあな」
ランスが減って洋次とコダチが残る。
「じゃあ私たちも」「お願いします」
渋々洋次の発明品の発表会に参加に同意した獣医師と薬師兼任のドノヴァン。サラージュの医療の要だったこの人物を改めて観察すると、濃いヒゲとかやや小柄な身長などドワーフ族の特徴がある。半ドワーフ半人間って人種かな。
「こちらです」
「はい」
「おや、酒臭いですな。稀人様」
「えーーーっと」
ドノヴァン宅から戻ったらランスの作業場は酒場の出張会場化していた。
「ランス、それにニコ、さん」
名前と顔が一致してる住民が僅からだら二名分叫んだ。でも十数人が地べた、椅子机どころか敷物もなしで酒盛り中。
「あーー?」
「あーーじゃないでしょう。どうして?」
効果音を選ぶならふらふら以外ない様子でランスが立ち上がる。顔は真っ赤で酒臭いったらない。
「あのよーー。ニコの店は、ゆーーーがたの稼ぎ時なんだーーー。それをよびつけたらーー」
「おーーーよ。商売あがったりだーーー」
「「「なーーー」」」
本人と『ニコの店』の常連さんらしい住民のダミ声合唱、酒臭つき第一番。ヘ短調。
「でよーー。ここなら広いしーーー」
「炉があるからよーーー料理も、できるんだーーー」
「いやこりゃ盲点だったーーー」
もしかしたらこの場を取り繕えるキャラ。ニコの娘のアンは、甲斐甲斐しく接客に勤しんでいる。アン的には場所の移動だけが問題で、仕事は仕事。咎めたり怒る理由にならないらしい。
「あーー。まれびとーーーちゅうもんはーー?」
酒なし独唱、第二番。イ長調。
「……」
だめだこりゃ。




