48 この石版じゃウマと犬も兄弟になっちまう
「薬研の利点と欠点を踏まえて、ミキサーを製造したいんです。薬研は突き詰めれば一枚刃ですが、このミキサーは四枚刃。これだけでも効率的です」
「ほぅ刃を回転。軸に刃をくっつけてハンドルで自力?」
「さすが師匠。弟子と同じでわかりが早い」
お世辞だけじゃない。技術者への自然の驚きだった。
「まれびとがこの田舎に必要かどうかなんて知らねぇ。でも事、鉄とかに関してなら、まあわかる。それが鍛冶屋だ」
「はい。助かります」
「これを作るんだな?」
「はい、試作を含めて数台」
「で」
「うわぁ」
凶悪なほどドアップで迫る鍛冶屋親父の顔。
「これをつくってどうなる。まさか姫さんやメアリーにイタズラなんて企んじゃいねぇだろうな?」
「どうして皆そこを疑うかなぁ。俺ゼンゼン信用ないしぃ」
「どうなんだよ」
「それは私も気がかりです。どうなんですか、まれびと様」
「あ、コダチまで裏切らないでよ」
まぁまぁと両手で待ったのポーズ、ひと呼吸で時間を稼ぎながら、瞬間的に脳内で速記した作戦書を披露する。
「この制作で最低二つ家が幸せになります。その中に、ニコさんも入れています」
「ほぅ。ニコをな。もしかしてもう一軒は鍛冶屋か」
「はい。そうです」
「ふんっ。まぁもっと詳しい図面なりで説明しな。この石版じゃウマと犬も兄弟になっちまう」
つまり絵が下手ってことだ。
「最初の幸せが、面倒だなぁ。でも」
「でも?」
「やるさ。なんたってモンスターの歯医者さんだからな」
「そうなんですか?」
「そう、だよ」
言って赤面するセリフはよく考えてから発言しましょう。




