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47 コダチ

「あ、あの」

 弟子でありランスの息子コダチ。そう言えばニホン語だと〝コダチ〟って女性的な名前の印象だけど闘球選手ラガーマン顔負けの体格な青年なんだ。人当たりは、ソフトだけど。


「もし良かったら私に詳しく話してくれますか?」

「有難いけど、いいの。いいん、ですか?」

「はい」

 キッパリと洋次を真っ直ぐ見下ろしたコダチ。


「鍛冶屋はよそ者の話しを聞けなくても」

「ああ、そうか。助手なら、か」

 素直じゃないのか、まだ稀人まれびとへの抵抗感が拭えないのかな。



 今回の洋次の作戦はシンプルだ。鍛冶屋の技術と共同で新兵器を開発する。

 それがミキサー。今回は食品の粉砕攪拌機の意味になる。コダチが目敏く留意した軸に刃を付属させて食物などを砕く。

 天然コンクリートに代わる義歯の素材を選択開発する繋ぎ。もちろん、インプラントを含む義歯の選択肢が失われた患者患畜には粥と併せた唯一の採食の手段になる。


「ニコさんのイグに先日義歯を装填したんだ。広場で」

「ええ、先ほどの噂程度は。あの、私たちははその時広場に行かなかったので」

「ああ、道理でね」

 洋次がイグに義歯云々を目撃していないから、又聞きで退治したと伝わった。それが勘違いの理由だ。


「では、まれびと様が」

 いやいやいや。


「さっき確認したじゃない、洋次です、コダチさん」

「そうでしたね。なら、私も改めてコダチでお願いします。私が聞いた話しでは、ニセの歯を叩き込んで退治したとか」

「そりゃ随分パワフル系に加工された噂だねぇ。その退治じゃなくて治療目的の〝義歯〟だけど、まだ技術的に未熟でね。もうアウト。計算より寿命が短かったんだ」

「ぎ、し? と鍛冶屋の接点が今回のご訪問と?」

 だからさ。頭を掻きむしった。


「ご訪問するほど偉くも賢くもないです。鍛冶屋の技量に自分の将来を託すほどヨワヨワですよ」

「まさか」

 ここは、微笑む場面なんだろうか。


「私は錬金術師でも超科学者でもないモンスターの歯医者さん。歯科医。おっとでも厳密には今回はモンスターの歯医者の領域外なんだ。でも、大事な道具」

「大事、ですか」

 ヤバいくらいマックスで激しく同意しました。


「大事です。この石版をもう一度見てもらえますか?」


 設計図面がプリント用紙や上質紙じゃなくて石版。これが中世風だ。


「そうそう刃が、四枚。棒、違うな軸だ。軸を回転させて物体を、すると食品を砕く?」

 図面引きは素人な洋次の設計でイメージできるのは技術者のレベルだろうか、感謝。でも、この先が難題。


「砕いてどうするんですか?」

「そこ、ね。ミキサーはね、歯とか歯茎が弱った人の救済になるんだ」

「みき、さぁ?」

「ミキサー。外側のケース、軸と回転刃、蓋。この作戦と治療には鍛冶屋の高度なテクが不可欠なんだ」

「刃が」

 コダチは石版の図から色々イメージしている。


「なるほど。回転する刃で中身を細分化、でき、ますね」

「あのよぉ」

「うわっイキナリ」


 お約束に右手に大型のハンマーを握ったランスが石版を覗いていた。稀人、よそ者の依頼はホイホイ受けられなくても、鍛冶屋の腕前が不可欠な稀人の異世界科学に興味はあるらしい。


「これなら薬師院ドノヴァンとこに似たのがあらぁ」

「ああ、薬研やげんね」


 参考までに、漢方薬の製造などで利用する道具が薬研。

 受け皿を兼ねる容器に素材を容れて薬研車、原始肉みたいな把手とってがある円盤をゴリゴリ動かして薬剤のすり潰しと混合をするのだな。


「あれは、すり棒よりは高速だけど、制作の時間が長いんですよ師匠」

「まれびと様を教えた覚えはねぇが、続けな」


 ランスって結婚の挨拶で開口一番、『お父さん』と言ったら怒鳴るタイプかね。



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