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45 ガッカリだ


「すみません。宜しいですかーー (かぁーー)

 手をメガホンにして叫ぶ。大小の炉と鉄を鍛える、鍛冶屋と言えばってアイテムの鉄床が数基。でも、エコーが効くほど閑散としている作業場だった。


「なにか御用ですか?」


 身長は洋次よりも僅かに高そう。ってことは百七十三、四センチ。仕事柄、握るハンマーがおでんの串に見えそうな屈強重圧の腕、胸板をしている栗毛の青年。年齢は、多分二十歳前後でヒューマン族、だろう。


「ご存知なら幸いですけど、稀人の洋次といいます」

 可能な限り丁寧に。深々と頭を下げる。


「コダチと申します、まれびと様」

「あーーー俺は稀人ってだけで、偉くも何ともないから初対面でイキナリひざまずかないでよ」

「でも」

「これから一緒にサラージュの発展のためガンバル仲間なんだから」

「仲間ですか?」

 これはフライング。順番に鍛冶屋コダチに警戒を解いて協力してもらいたいのだ。


「でも、鍛冶屋って職人肌の筆頭ってイメージだけど、コダチさんは随分礼儀正しいんですね」

「それは」

 ん。どうして口ごもる。


「私は鍛冶屋の息子です。見習いの弟子です。父のランスは、その」

「ああ、そうですか。ちょっと軽くお話しなど聞いて頂きたいんですけど」

「要件は?」

「ああ、この石版お借りしていいですか?」

 ホワイトボードまでは期待してなかったけど、メモ紙とかチラシの裏じゃなくて石版。なんて正統な中世風なオルキア王国なんだろう。


「あんま絵上手くないんで申し訳ないけど」


 石版には、洋次のこれからの道具のイメージ図。設計図とはとてもウソぶけない出来具合だったけど、口先とダブル解説するしかない。


「これは、中央の棒を軸に何枚かの刃が回転するのですか? 拷問道具で?」

「なんだ、その怖い設定」

 基本設計をなんとなく把握したのはさすがなんだけど、ズレているよな。


「ですけど、私はまれびと様がモンスターの歯をどうにかして退治するとか、したとか耳にしましたけど」

「あーー。退治じゃなくて治療だったんだけどねぇ」

「え? 広場でなにかご披露したと噂で聞いてますけど」

「広場でね、でも肝心に歯がね」

 大口を開けて自分の歯を指す。


「肝心の義歯に亀裂が入った。失敗、大失敗。これでモンスターの歯医者さんって堂々と名乗れるって人生設計が頓挫、ガッカリさ」

「そう、ですか」

 コダチが険しい顔をしていたので、洋次は自分から率先してガス抜きをするような軽いトーンで話す。


「ガッカリがっかり。セメントの固形化だけ確認して装着の実験しないで実戦投入した結末が、これなのさ」

「でもどうして実験をしないで装着、を?」

 技術的な話しでは、それほどマイナーな路線に走らないのが鍛冶屋さんなんだろうか。


「厳しいね。コダチは知らないだろうけど、ニコはね、イグを潰す。殺そうとしていたんだ。だから拙速で未完成、試験投入でも仕方なかったんだ」

「潰す! そりゃ酷い。アンはイグが大好きだったのに。それは町の誰もが知ってることなんですよ」

「まあ他人からすれば、酷いかもね。でもイグが生きている限りは、死なせないためには未完成品ブタでもカードを切るしかなかったんだ。悔しいけどね」

「でも、ようじ。ニコがそんな酷な真似をするなんて、ガッカリです」

 大きく指を広げて待ったをする。


「ニコだって苦しかったよ、きっと。でもやせ衰えて死なすより殺そうとしたんだ。だから。まぁ、これは未完成の製作者のグチだな」

 また険悪な雰囲気になったぞ。


「本題を進めよう。この刃、今回は四枚羽根なんだけど、これが俺の道具なんだ」

「この鋭い刃でモンスターのドテッ腹をくり抜くと? ですがサラージュには西側にハーピィが棲息している程度で、あれは撃ち落とすのが一番かと」

「ハーピィ? また飛翔系モンスターが登場したなぁ」

「ええ、サラージュの西にはハーピィが大量に棲んでおります。あれのせいで西との交流がほとんど途絶えたくらいで」

「へぇー。そりゃ難敵だな。俺の世界じゃヒトと共存したハーピィの話しを読んだ気がするけど」

「それこそありえないです。ハーピィにどれだけ被害を被っているか」

「じゃあ」

 計算が狂った。じゃない、そもそも洋次はオルキアの常識力はかなりヤバい。


「ハーピィは後回しでお願いします。それで、この回転棒と刃、その受け皿になる器なんだけど?」

「〝ウツワ?〟 窯の息子の?」

 コダチと言いサラージュには意外とニホンっぽいキャラが住んでいるんだな。


「……それ人前? じゃなくて容器」

「ああ、この筒状のモノにモンスターの腕を挟んで砕く?」

「そうそう、回転する刃が、じゃなくてね!」

 どうもサラージュでは労働モンスター、家畜使役獣モンスターの保有率が低いのが原因だろう。

 モンスターは退治する対象らしい。どうも車ディーラーに匹敵するモンスターショップがないと思っていたら、敵対認識が主流だったとは。


「あのですね、お、私はモンスターの歯医者さんなんです。ヒューマン系の医者でも獣医師、薬師と競合しない、なんだか大陸初のモンスターの歯医者さんです」

 大事なことなので繰り返す。


「では、その新商売の稀人様が鍛冶屋(私たち)に、どのようなご要件で?」

「稚拙な点は口頭で補完するから、先入観なしに道具の絵を見て欲しいんだ」

 石版を食い入るように眺めるコダチ。ふと、軸になる部品をコツコツとマークした。



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