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35 最初はイグー


「はい、皆さんご覧あれ。イグの歯はもうボロボロ。これでは餌を自分では噛めません」


 だから潰すんだ。そんな苛立ちがありありとしているニコ。


「で、道具箱から取り出しました、こちら」


 おおおおおおお。

 ぉぉぉぉぉぉぉ?


 稀人が仰々しく提示したので異世界超科学相手もでもご登場が熱望させていたのか。でも、自称、目標でモンスターの歯医者さんが塔に篭って制作していたのは、なんてことない義歯。

 つまり付け歯だ。


「まず、この付け歯をご覧あれ」


 掌では見物人は二、三人が限界。予め広場にセットしてもらっていた長机に、義歯のモデルを陳列する。人間だと前歯になる切歯、その脇の犬歯、奥歯の臼歯の三種類を製作。

 試作も兼ねていたので、数個のテストモデルを展示して見物人の興味を削がないように努力もしている。


 こんな理由だから実用不可なテスト品も混じっているのは秘密です。


「あ?」「これ、牙じゃねえか?」「俺らの奥歯みたいな歯がある」


 よしよし、注目されているぞ。体温が沸騰しているような高揚感なのか興奮に包まれている。

 義歯の視覚的な注目はひと段落と判断して、第二ステップに移行。


「幸いにイグは歯はボロボロだけど、顎は、まだまだ大丈夫。だから」


 モデル義歯と揃えて長机に用意した壺を開封。これが、ある意味では治療であり、稀人の魔法でもあるセメントが蓄えられている壺だ。 


「この作り物の歯を、この接着剤で」


 ここからは単純作業。義歯に接着剤を塗って顎骨に装着する。こうして接着剤が乾燥するまで安定を目的に、義歯と顎を糸で結ぶ。


「はい、御終い」


 パンと手拍子を打った。

 まだまだ次の魔法の披露を願っていた見物人には不意の治療終了の合図となる。


「で、これでどうなるんだ、まれびと、さ、ん」


 呼び捨てから、躊躇いながらもさん付けに昇格した。


「理想は地球と同じ数分」


「「ふん?」」


 あ、この時代は正確な時計の保有者っていないに等しいから通じない。

 

「まぁ焼き串一本ゆっくり食べ終わる時間なんだけど、今日がデビュー戦。モンスターの歯医者さん初心者なんでね」


 絵的ビジュアルでは、支え棒で顎を縛られているオオトカゲが、プラスして謎のトグロ巻き。患部の固定の概念がなければ、イタズラと区別がつかない。


「さっきコッソリ予備の歯を接着したんだ。いやイグの前歯は人差し指くらい太さも大きさもあるから楽だったよ」


 ご覧あれと机の脚が宙に浮いている場所を指しています。


「ああ、机が持ち上がる」「くっついてらぁ」


 長机に義歯をくっ付けて取っ手にする。これはサイズだけなら人間の頭を粉々にするオオトカゲ用の義歯だから可能な初級の手品だ。


「これなら大丈夫。なにしろ、ヒューマン系なら、『今日一日は硬いものを食べないでください』って説明できても、イグとかのモンスターだとね」


「イグ」


 メアリーの魅了で微動だにしないイグを心配しているのかな。アンはモンスターの言い回しには反応しないで、兄妹同然のモンスターの頬っぽい目の下をナデでいる。


「イグ、起きて」

 メアリーからの事前情報。魅了の解除呪文はないそうで、自力で目覚めるのを待つ以外手段がない。

 

 ぎゅゅゅ。


 イグ、起動しまーーーす。

 さあさあ、問題はこれからだ。


「アン、これをイグに食べさせて」


 下準備しておいた、細切れの青草が入った木椀をアンに渡す。


「今朝までの完全に擦り潰した食事はどのくらい時間かかったかな?」


「たいしたことないよーー」


 それは、イグ大好きなアンの弁。


「一食二時間、一時間半、かな。ま、一時間はぜってーー越している」


「結構大変なのは間違いないですね。でも」


「イグ、食べてね」


 うわっふ。もぐもぐ。


 突然眠らされて突然、口内に違和感があれば暴れるのも仕方なし。イグがアンと仲良しじゃなければ、逆効果な結末も考慮される事態なんだ。


「イグ、噛んでるよ。ちゃんと草、食べてるよ」


 一面では感動的な場面でも、大人の目はそうそうダマせない。


「んなぁ。この餌だって今までに比べれば」

 まだ稀人効果は浸透していないから当然の対応だし、逆説的には願ったりなツッコミだ。


「そうですね。でも、この餌の製作時間は五分。二十分の一です」

 そう言えば、時間の単位ってチキュウ式と同じか違うか確かめていなかった。


「でもな」


「接着が安定したと判断したら、柔らかい草なら今まで通りに戻してもいいんですよ」


「安定? そいつは何時だい?」

 大人が、肝心要のニコが食いつきてきた。


「まぁ半月頂ければ。そうしたら、イグは配達だけじゃなくて、井戸の滑車回しとかも遂行できます」


「ほ、本当に治ったのかい?」


「ええ。俺、モンスターの歯医者さんですから」


「じゃあ、元通りだね、やったねイグーーー」


 きゅぅぅぅ。


 まるで大蛇のトグロ巻きで、絡みあうアンとイグ。出前をしていたイグの不調は、周知だったようなので、この高速的回復で洋次の稀人能力を実証した結果になる。


 ほぉぉぉぉぉ。


 取れた歯が元に戻る。正確には義歯の接着だけど、サラージュの人がそう解釈しても不思議じゃない。この行為は抜歯対処しか知らなかった時代のニホンジンだって拍手喝采したさ。きっと。



 地球のトカゲは、歯は短期間で生え変わります。


 ですから、やはり異世界の生物は全くの同一ではない、と解釈してください。

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