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28 オルキア王国でどうやって暮らそうか


「お味は如何ですか?」

 前菜、スープと続いてやっと主菜メインディッシュ。昨日の焼き串を試し食いした以外は丸一日以上まともな食事をしていなかったから、正直なんでもご馳走だ。


「上品な味ですね」

 本音としては調味料も分量もかなり微量だ。お姫様お嬢様している、カミーラでも満腹するのか疑問なほど少ない。


「ようじのチキュウの料理と比べてメアリーの料理はお口に合いましたか?」


 分量が少ないせいで洋次は食事会よりも脳内でカミーラとメアリーの美少女コンテスト。エントリーが二名しかいないけど実は参加者の超A級です。


 エントリーナンバー一。

 メアリー。十五歳、エルフ。仕事中だから固く結ばれた金髪も減点にならない艶。白い肌に薔薇みたいな赤い唇とエメラルドグリーンの瞳。世界遺産に登録したい美峰の持ち主。



 エントリーナンバー二。

 ワルキュラ・カミーラ、吸血族。ヴァンの説明だと十歳。白磁の美肌に、豊穣の月光にウェーブを立てる銀色の長髪、まだ余白が伺える色付き始めた桜ピンクの唇。マリンブルーの瞳に華奢のモデルになりそうな細い手指先、腰つき。


 つまり。

 貴族の身分を度外視しても、洋次の十六年の人生で全く縁のなかったダブル超美少女だった。


 そして、お皿に食器に写る洋次の衣装。着慣れていない黒服が、ちょっとどころか笑える。


「メアリーの料理はもちろん素晴らしいです。正直地球とバナトの味覚が根本的に違いがなくて安心してます」


 量的な面を除けばウソじゃない。


「ち、きゅ、う? それがようじのセカイ? メアリーはようじを〝ニホンジン〟だと説明しましたけど」


「バナトの一部がオルキア王国なのと全く同じで、チキュウの一部がニホンなんです。メアリーは間違えていません」


「そう、チキュウですか」

 わかっているのかいないのか。でもカミーラが洋次を異世界人、稀人だとは信用してくれたらしい。


「で、その地球人なんですけど」

「はい」


 カミーラがグラスを干した。


「俺は、その高校生と言いまして」


「〝こうこう。せい〟ですか?」


 素早くメアリーが耳打ちする。高校の知識があるのかな、携帯は水没させたのに。


「それが〝こうこう〟ですか。修道院に似ていますね。その、お友達と別れてしまって、ゴメンなさい」


「それはいいんです。問題は」

 問題は、オルキアに転移して今日で二日目なのに、同級生の顔を思い出せないこと。いや、もうそんな過去は問題じゃない。


「俺がまだ特技らしい特技もないし経験が少ないってことです」


「でも、商売が盛況だったと聞きました」


「あ、報告済みね。でも。あれは多少物珍しさもあるし」


 メアリーの眼光が細くてキツイ。


「ニコ・ゴリさんや、娘さんには迷惑をかけました」


「またまたゴメンなさい」


 カミーラが洋次に頭を下げる。唱和、じゃなくて追従でメアリーもペコリ。


「それも和解しました。今日も、ドノバン獣医師とトマ先生とも」

 話しがこじれそうだからヴァンと会話した事実は後日談にしようと決定する。


「まぁ」

 お見事。カミーラは正しい作法で扇子で口元を隠してから驚く。


「ようじ。実は二人ともサラージュではそれぞれ一人しかいない獣医師と薬師なのです」


「薬師?」

 薬剤師と同意義語だ。


「トマ氏は本業は薬師。医師は副次的な業務で、です」


 さっきまで凛としていたメアリーが可愛く口元を抑えている。クスッと擬音でも小脇にして語りたい気分だった。


「で、改めて。俺がこの異世界、バナト大陸のオルキア王国で、稀人だろうが、一般人だろうが、どうやって暮らそうか考えたんです」


「はい。稀人が宣言する仕事は国王陛下でも拒否できません。王国やセカイの維持に関わるような反道徳的な内容でなければ」


「凄い仕組みですね」


「王国宰相に就任した人もいたそうです。ずっとずっと昔ですけど」


「ありがとう」

 教えて頂いて有難う御座います。御教授賜り光栄です。などの貴族社会っぽい言葉の扉は洋次には開かれていないのだな。


「ねぇ。一応儀式の生贄になったから教えて欲しいんだ。成人の儀式って、どんな作法なの?」


「洋次」

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