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27 歓迎の席

 一時カミーラ嬢退場。シュン。気落ちしていますオーラが漂うカミーラが、ドレスの裾を摘みながら控えの間に吸い込まれる。

 そして、ほんの数秒の間を置いて、奥の扉が再び開く。


「稀人、板橋洋次様。サラージュの次期当主、カミーラ嬢の御出座です」


 扉の端っこにお辞儀をするメアリーが見える。なお、御出座ってのは……字引で調べて。


「板橋洋次、です。で、あります?」


 マナー教室なんて受けていないし、受けていても爵位貴族は日本にはいない。


「確か」


 通常サラリーマンの月収じゃあ一脚どころか背もたれにも届かなそうな椅子から腰を浮かす。そして、胸に手を当てて頭を下げる。覚え間違えじゃなければ、拝礼ってやつだ。


「改めてこんにちは。前主ブラムの娘、ワルキュラ・カミーラです」


 ……。そうなんだよな。


 胸の奥だか喉元だか、モヤモヤ気分にさせていた原因だよ。娘の、日本基準では早すぎる成人の儀式に、ご両親が不参加。これってつまり、血縁上は孤児じゃないのかな。

 さっき御母堂、つまりお母さんが亡くなっていると明言してたから、可哀想だけどお父さんも、御他界だな、きっと。

 しかもオジさんオバさん、成人している従兄弟系レベルの親戚もいないって感じ身寄りのない寂しい貴族様なんだ、カミーラちゃんは。


「お座りください」


「あ、どうも」


「音は立てないように」


 既に着席しているカミーラの脇に、直線的に控えているメアリー。お仕事中は、結構厳しい美少女だ。


「それでは」


 メアリーが宝石みたいな透明感のある液体をカミーラ、そして何十歩も移動して洋次に。それぞれのグラスに注ぐ。あまりに綺麗だから、ロウソクの光で透かしてしまっていた。色と匂いで、液体の中身は即判明する。


「あ、冷水ノンアルコール


 すかさずメアリーが軽い咳払い。カミーラが、なにか喋るのが優先ってことだ。


「それでは。稀人、いたばしようじ。貴方を歓迎します」


「その、なんと言うか。よろしく」


 水で乾杯したのは初体験だ。でも、想像以上に美味しい水だったから、ほっとしていた。




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