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25 ゼッタイありえ、えません


 やっぱり城だ。城塞だ。

 洋次は町の端っこから視認できる場所に引き返していた。硬そうな壁もあるし塔もそびえている城が洋次の仮の住所現になるなんて人生って、不思議だよな。


「お帰りなさい。遅いから迎えに伺おうか思案中です(・)た」

「噛んだ?」

 これに〝ご主人様〟の単語が戴冠したら、そりゃきっと嬉しすぎるんだけど。メアリーのご主人様はカミーラだから。


「噛んでません。では、お昼食とお互いの対面式を兼ねて行いますから御用意を。お嬢様もお待ちかねですよ」


「待たせちゃったのか。悪かったね」


 連日の騒動のタネになってしまった。でも、今日は身体も心もぐるぐる巻きじゃない。板橋洋次は自由な身なんだ。


「あのさ、メアリー。町で色々あったんだ」


「まさか」


「いや、ニコさんもドノバンさんも、お医者の」


「トマ氏ですか?」


「あの人そんな名前だったんだ。で、そのトマさんともお話ししたんだ。〝医者獣医師、食べ物屋はしない〟って」」

「なるほど」

 もう一つ、どうしても確認したい重要事項がある。


「ねぇ、カミーラって、うわっ」


 百八十度ターン、キッと鋭い眼光が射抜くようだ。


「お嬢様、あるいは姫様か令嬢の敬称なしで呼ぶのは許しません」


「あ、悪かったです。で、カミーラ姫は婚約者っているの?」


「成人の儀式も済んでいないのに、いるわけないでしょう」


「でも、貴族って産まれる以前から婚約って事例あったそうだよ」


令嬢レディカミーラは御幼少期に御母堂を亡くされて以来、修道院で学んでおられました。後見人も未定でしたから、婚約者など居られません」


「メアリー、君は? 実はハッタってかヴァンと喋ったんだ」


 さっきは射抜く眼光。今度はアニメキャラ顔負けのデカい目になる。


「ハッタ様が来ていたのですか、令嬢は、その外出中としなければ」

 まるでオロオロの見本図。メアリーがアタフタキョロキョロと落ち着かない様子だ。


「なんでさ」


 幾つ、『ー(長音符)』が必要なんだろって長ぁーーーいため息をつくメアリー。


「小さな子供の戯言ですから本気にしないでください。大体、サラージュとモクムの間で婚姻なんて有り得ません」


「だから、なんでさ」


「基本的に隣同士は仲が悪いものです。長い間には揉め事なんて数え切れませんし」


「ああ、水争いとか境界線とか、家畜が草食べたとか下流から泥水流したとか」


「案外お詳しいんですね。ですから、ハッタ様も大きくなったら領主としてサラージュと対立します」


「そうかなぁ」

 ボリボリと後頭部を掻く。


「ワガママな面もあるけど、今からカミーラ姫とハッタだかヴァンが仲良くすればいいじゃない。あ、それにメアリーが側室」


 ど、どドーン。

 強大なツインの膨らみが争鳴するほどメアリーが肉薄する。胸の揺れだからってワケじゃないぞ。


「ゼッタイありえ、えません」


 慌てて口元を抑えるメアリー。


「噛んだよね?」


 あ、この表情も可愛い。メアリーの頬が微妙に膨れた。


「メアリーって八重歯だもんね」


「そう、ですよ。細すぎると嫌われますよ。あんま、女の子の身体をしつこく点検するのはエチケット違反です」


「ゴメン、そんな意味じゃなくて。どうすれば伝わるかな」


「はいはいはいはい。では、手配した衣服にお着替えください。既に仮の居室に据え置いてありますから」



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