232 ダレ?
「ではっと」
空を見上げる。
「サラージュ、オルキアでも一番星って言うのかな」
まだ淡い紺色の空に輝いている、チキュウ式の用語だと一番星を眺める。
「食事、するかな?」
洋次の記憶が間違えていなければ、〝さっき〟バンシーが配膳してくれたやつがあるはずだ。
「ええと? 診察の机の脇に」
バンシーがなんでか乱暴にお盆に載せた食事を放置したと思っていた。
「ないや」
一度立ち上がって周囲を確認。
「誰か?」
バンシーがガシャンと音を立ててお盆を置いたまでは覚えている。
となると、ダレか──サラージュ住民かテミータが食べちゃったのだろうか。
「ま、仕方ないな」
さすがに有ると思って後回しした食事がないと気落ちとかじゃなくマジ空腹だ。
「メアリーか」
メアリーはワルキュラ伯爵家お家令補佐も勤めている。つまり、復興の指揮をするから超多忙。自己責任で一食食べはぐったかたと迷惑かけるのも悪い気がする。
「我慢、するか?」
黄昏から一段階暗くなっている。
「ええっと寝床はどこだったかな?」
まだ完全な夜じゃない刻。なんと呼んでいたっけと洋次はチラっと勉強不足の国語を思い出そうとする。
薄暮、黄昏、そして。
「ああ、逢魔が時か」
「まあ、そうだな」
「んじゃ、腹ヘリだけど寝ようかなっと」
地面にボロ布を敷いただけのベット、もしくは寝床に腰掛ける。
「ええっと」
寝床が地べたなら、布団も悲惨だ。何しろ、掛布や簡易ケットは繊維質の束。真っ先にテミータの標的になっているから残骸もない。
「確かこれ」
今朝布団の代用で使ったアイテムはサラージュ城の地下倉庫に備蓄していた古着。まあ昼間着ていた衣服をそのまま布団にしていた時代もあったらしいから、バックツウ-ザ江戸時代ってとこか。
「ええっと、埃っぽいな」
一日干したり畳んで収納していなかったから触っただけで砂埃とか細かいゴミが付着していた。
「じゃあバタバタと」
バタバタ埃を払おうとして立ち上がり。
むぎゅ。
「痛いな」
「………」
ダレ?




