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231 ならいい


 残念だけど、現在。


 柘植材以外の義歯の素材がない洋次には、テミータの義歯は、死んだテミータの牙を接着するしか方法がない。だって柘植は木材。

 シロアリ人には柘植は食料だ。ニホン人で例えると餅で入れ歯を制作しても実用されないと答えるしかない。

 それに天然人口の樹脂や新素材を模索する時間の経過は、サラージュ城内で隊列を組んで治療を待っているテミータたちの衰弱・餓死に等しい。

 不幸な幸運として、洋次の手元足元には大量のテミータの亡骸、牙が埋設保存されている。

 倫理的な疑問符さえ度外視すれば、この死亡テミータの牙の再利用が一番有効な治療法なのだ。



「洋次、ハエがたかっちゃうよ」

「ああ、そうだな」

 復興のつちの音なんてセリフ、ガラじゃない。

 でも、サラージュを壊した穴だらけにしたテミータたちが、今度はサラージュを作り直している。


「でもテミータたちも頑張ってくれてるから」

「ふうん。あのね、ヴァンが帰国するよ」

「ヴァン? 北隣(お隣)のモクムのヴァン殿下?」

 洋次は診察しながら会話している。診察って、要は欠けたり折れた歯を、別のテミータの歯で補修するだけ。後は藁で縛って糊が乾くまで待機。

 診察待ちと糊の固まり待ちで朝からシロアリ人の大行列は収まる気配がない。


「そっか。ヴァンが帰るか」

 救援軍はムダ出撃に終わったし、ヴァンのお目当ての正夫人候補のカミーラと第一側室候補のメアリーの無事も確認してるし。


「そうに決まっているじゃない」

「まあ今回の訪問で殿下もポイント稼いだからな。あれ、カミーラは?」

 とあるテミータ、シロアリ人に合わせた歯が微妙にズレている。洋次は一度、くっつけた歯を外して、一部を削り始める。


「メアリーとお見送りしてるよ」

「それは良かったな。これでどうです?」

「//キキーー//」

 六本持っている内の一本。右手を高々と揚げていい具合だと知らせるシロアリ人。


「いいの? 洋次」

「いいってお隣とは仲良くして欲しいし、自称でもヴァンはカミーラの未来の伴侶だし。あ、伴侶ってさ」

「いいんだ。」

 すすっ。そしてひゅーーーーーーーっ。

 トリハダものの冷感に思わず洋次は肩をすくめていた。


「サブっ! おいバンシー。シロアリ人(テミータ)さんが寒がるから、冷風を置き土産にしちゃイケナイよ」

 あれれ。高速で飛んでゆくバンシーだった。


「なんだよ。そばにいるなら、手伝ってよ」

 洋次も素人なら、異世界のコドモだったバンシーにどうて伝えと?


「ふぅ。寒くないですか? じゃあ接着しますから」

 モンスターの歯医者さんの仕事は続く。



 何人。何百、もしかしたら千人単位のテミータの歯を直した。


「くっつけたかなぁ?」

 一度腰掛けたままの姿勢で背伸びをした。


「よる?」「//だな//」


「ええっと、皆さん?」

 ぞろぞろぞろ。

 握手会サイン会なら、どんだけのトップアイドルかって万余のテミータが並んでいた。


「あれ?」

 日が暮れて、でもまだロウソクとかの照明なしに歩けるくらい、そうだ黄昏時になっていた。


「皆さん?」

 ほんの僅か。多分、緊急を要するテミータが何人か残るだけで、穴に潜ってしまった。家に帰る、だろうか。


「そっか」

 巨大サイズ、人語を駆使するテミータもいるけど、やはり根本的に昆虫人。日没は活動の休止を意味しているのだ。


「じゃあ」

 今日これまで洋次が治療。歯を穴埋めしたり、義歯をくっつけたりした人数と対比すれば、居ないも同然のテミータに治療を施せば本日の歯医者さんは閉店になる。


「でも、その分急がないとな」

 大半のテミータが穴に戻る中でまだ治療を望んでいるグループだ。シッカリと面倒を見させて頂こう。


「//うぃうぃ//」「すまんな」「//ぴゅぴゅ//」

 テミータ語の発言は意味不明だけど、自分の生命線である牙を診察させるんだから、好感度は上がっている。それは、サラージュの復興と発展の確かな足場になるし、そもそも洋次の使命なんだから。



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