230 俺たちの戦場は、ここだよ
バイアの分隊を見送る、もう一つのイベントがある。
「おっさん、どうして行かないし」
「行かないって。どうして君はそんな喋り方なんだい」
昨日。
暴走してサラージュを穴だらけ。ボロボロにしてテミータたちと大乱戦を展開した地元義勇兵の二名。
半人半オークのモデラ少年と陶器職人のウツワ。
「俺ハーフオークだし」
「そっか。そうだったな」
「おっさん英雄だし。今なら王国軍に採用されるし」
生意気なのかヒューマン語がヘタなのか。ともかくヘンな喋り方のモデラ。
「いいんだよ。騎士とか戦士になるのは夢。子供の夢さ」
「でも」
「モデラ君こそ」
「俺妹いるし、畑あるし」
「そっか。私も釜があるよ。田舎のしょぼい釜だけど。でも、これからは仕事が増える」
「増える?」
怪訝。
サラージュが穴だらけで、また新しい夢を見ているのか、この陶器職人は。
「と、いいな。それじゃあ」
「お、おっさん」
行軍しているバイア分隊から背を向けたウツワ。青年と壮年の微妙な端境期の男性をとっぷり少年なモデラが追いかける。
「私の釜に来るかい? どうせシロアリに壊されているだろうけど」
「行くし。俺の畑も穴だらけだし」
「そっか。実はな」
まだ試案なのだ。
でも、領主様の稀人、洋次は柘植だけに義歯の素材を頼らない治療を考案している。
『試作を手伝って欲しい』
そんな手紙を以前受け取っていた。
「俺たちの戦場は、ここだよ。モデラ」
「おっさんカッコつけてるし」
サラージュの地元民は、百パーセント人類ではない。でもシロアリ人、テミータが混じる光景は異様に映るけど、それもまた。
「これが新しいサラージュなのかな」
「おっさんが古いし」
なかなか若い意見は厳しいらしい。
「洋次、ご飯」
「ああ、了解。バンシー」
同士打ちやサラージュを穴だらけにしたり。
シロアリ人ことテミータ公国の領民のほとんどは牙にダメージを持っている。
しばらく洋次のモンスターの歯医者さんとしての業務は、テミータたちの歯と言うか牙の補修治療になる。
「洋次」
「わかったよ」
テミータの公民。領民は、困った事に公国幹部でも把握してないっぽい。
五百万人とも億単位とも。
バトらなかったのは、幼年者や一部。行列のテミータたちは洋次の寝食を奪いそう、いやもう奪っている。
ガシャンと音がした。
「洋次。食べないとダメ」
ぐいぐいと背中を引っ張るバンシー。たった一日で推定五歳児から十代前半にタケノコ成長してしまった北風の精霊だ。
「ああ」
「//ぴぴぃ//」「おれーーー」
歯が大事、命なのはニンゲンもテミータも同じだ。洋次は、生き死にに関わるシロアリ人、テミータの歯の治療を強行する。しなきゃならない。
「知らない。置いとくからね」
「ああ」
以前──……。
細工師のホーローに突っ込まれた。
『誰かの歯を治すために誰かの死を待つのか』と。




