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23 きゅぅぅ。


「じゃぁ、今回は俺がお手本をするから」


「「はぁ?」」


 稀人は異世界人。だからトンでもないスゴ技超秘技で指先を捻れば問題解決。

 町の人たちにとっての稀人の予備知識と期待度は、こんな拡大コピーされているんだろうな。


「悪いけど、イグが心配だ。文句は作業の後にしてくれ」


 再度地べたにあぐら。これがアンから受け取ったすり鉢で植物を潰す作業の始まりの合図だった。


「どんな薬をつくるんだ?」

「まさか、人族ヒューマンにも即効性の薬か、そうなったらお手上げだよ」

 このセリフからすると、今の発言者は人用。普通のお医者さんかも。


「だからさ、これは餌。医術でも獣医の領域侵犯でもないんだよ。だよね、獣医師のドノバンさん」


 ドノバンの代弁。すり鉢がキュコキュコと摩擦音を立てる。


「できた」


「「はぁ?」」


「だ・か・ら・。これはイグの餌」


「じゃないよ。薬、そうだよね」


「そっか。そうだよね」


 アンにとっては栄養失調で動けなくなっているイグは病気と同じなんだろう。


「でも、薬じゃないんだアン。〝だって薬はお医者さんしか出さないんだ〟」


 すり鉢に貯まった砕いた草や汁に水を足してから、匙でまとめる。


「ほら、赤ちゃんに食べさせるのとソックリだろ?」


「うん。イグ、食べてるね」


「正確には飲んでるんだけど目的は同じだから。じゃあアン、君がイグに食べさせてあげて」


 洋次を威嚇する元気が残っている時でもイグはアンの命令に従っていた。だから、アンの手で与えたほうがスムーズだ。


 きゅぅぅ。


「イグ、元気になったんだね」


「それは早すぎるけど」


「イグ、イグ。よかったね」


 ぎゅぅぅぅ。

 最初はイグがアンに応えた鳴き声。

 次のぎゅぅぅぅはアンがイグを抱きしめた擬音。

 それから先は、洋次はアンのアウトオブ眼中になっていた。


 でも、「へぇ。異世界って視点や視野が変わるのかな」


 アンに頬をすり寄せるイグ。本気でガブりと噛めばアンの頭蓋骨を粉砕可能なイグの巨大なトカゲ頭が、子猫の顔に見えてしまった。



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