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223 分隊、食事とれ



「ええっと兵隊さん」

 バイアは貴族で将校、中尉の階級になる。


「あ、ああ。間違いなく兵隊だが」

 貴族出身の気持ちの余裕なのか、バイアは言葉尻をつついたりしない。


「先ほど申し出ましたミキサーですけど」

「おお。それですよ、我が隊の本来の目的は、ミキサーの購入です」

 立場上は、バイアは重複してサラージュの地元平民よりも上位者だ。


「試験駆動したので大丈夫ですけど、シロアリたちが囓った商品も混ざっていて」

「ふむ」

「御足労ですけどハリス領で無事故良品を受け取って頂いた方がよろしいかと」

「なるほど」

 うんうんと頷いたバイアは、貴重でそこそこ高価なミキサーをバトル参加のお礼で提供すると申し出た青年の名前を知らなかった。


「申し訳ない。貴殿の名は?」

「ああ。コダチ。鍛冶職の見習いで、このミキサーの責任者っぽい」

 途中で貴族様への口の利き方ではないと慌てる。


「構わぬよ。貴殿は我らが欲するミキサーの製造主。売ってくれないと余の立場が危うい」

 まだ、どちらかと言えば売るほうが上位な時代、セカイなのだ。


「いえ、お客様に申し訳御座いません」

「しかし、考えてみれば成る程。鉄を鍛える鍛冶屋故の発想だな、この新商品ミキサーは」

「ああ」

 キコローが襟首なら、コダチは後頭部をポリポリするのがクセ。


「これは稀人。〝チキュウ〟から訪れた稀人の洋次卿の発明です。私たち親子は、それを指示通り製作しただけで」

「ほほう」

 バイアとコダチが大人の会話をしている最中。

 細工師のホーローとバイアの副官である当番兵は、ミキサーを荷積み作業に汗を流している。


「今載せたのは傷一つないから平気」

「だが、肝心の荷馬車がシロアリにカジらておる」

「んなの、ぱぱっとコダチと私が直すって」

 公的な立場をわきまえないで仕切っているホーローに、目を細めているバイア中尉。


「なかなかに」

「あ、いえ。粗野な女で」

「いやいや。竈を司る妻たる者、あれくらいで構わぬ。余の」

 セリフの途中で、バイアはコダチの顔が、異様に特に口元が歪んだのを見逃さなかった。


「あれは私の妻じゃないですから」

「おや」

 どの角度から観察しても貴殿の妻ではないのか。既に尻に轢かれて。

 そんな迂闊な発言を控えられるくらいにバイアは熟練していた。


「それは失礼した」

「いえ」

 シロアリ人たちとの大乱戦の疲労と、バイアの言葉の剣がコダチをぶった切る。


「ってほらーー。コダチ(あんた)も手伝ってよー」

「ほう」

 あんたとご指名だぞ。そんな言葉を言い含んでるバイア。


「だから、その。ちょっと失礼します」

「ああ。貴殿がミキサーの製造責任者なら、点検で無事な品物が規定数を超えていれば、ハリスに戻るは不要。むしろ遠まわしをした分、一刻でも素早く城塞に帰投したき所存」

「左様です御座いますか。では全台点検を実施しますので」

「助かる」

 一応コダチの礼をしたバイア。城の中から、いい匂いが漂っていることに気づいた。


「アンがワゴンを持って。食事の差し入れかな?」

「ならば助かる。兵員たちもバトルで喉が渇き空腹であろうからな」

 でも面白い光景だとバイアはつぶやいていた。

 軍隊式には糧食隊の戦闘は大きいトカゲに載った童女アン

 アンの脇には、一角獣。当然、バイアは希少なモンスターがフラカラ卿であるとは知らない。

 アンとフラカラの並走に従うように見慣れない人種の青年──洋次だ。

 一角獣も青年も荷車を牽引。


「ほほう。定番ながら、野戦食ならば大鍋の料理であるか」

「あ、彼方あちらは当サラージュの稀人で洋次卿。ミキサーの設計者でもあります」

「稀人? 成る程道理で画期的な思考をされた」

 くどいけどバイアは貴族なので、稀人の意味役割、数多くお得が付属しているキャラである前知識を備えている。


「おまたせーー」

「色々有難う御座いました。先ずは人心地ついて下さい」

「想定外に腰が低いな」

 バイアは数歩軍靴を滑らせた。

 少人数でもマラム城塞守備隊の責任者として、稀人には礼節を欠くことは許されないのだ。


「今回の援軍、サラージュ次期当主に」

「世辞虚礼は結構。多少成り行きであって」

 成り行きの火種がハリスでミキサーを購入するための出張そのもの。


「でも本当に感謝します。まずは」

「食料の補給は正直に当方も有り難き申し出」

 当番兵に目配せをする。


「分隊、食事とれーーー」

 高々と当番兵が右手を掲げて分隊員に提供された食事の許可を与える。何しろ公務中だ。勝手飲み食いなんて、しちゃダメだから。


 当番兵の号令に、わっと城塞守備隊の緊張が溶ける。

 思いっきり動いた若い肉体は、栄養の補給に活力を取り戻して鍋や皿に群がる。


「さあ。どんどん食べてください」

 洋次はワゴンの前に並んだ兵隊たちに皿などを配る。


「はいはーーい。並んでね。お代わりあるからねーー」

 アンが配膳の役目。


「あ、あの?」「稀人閣下」

「はい?」

 バイアが率いていたのは分隊。でも目的が買い物で、厳密な戦時編成じゃないから数的には小隊に近いかも。そんな大勢の軍人の列からナゼか二名。脱線した兵隊さんがいた。



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