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222 まれびともおウマさんも、てつだって


「これより、貴女が我が主君。副馬でも構わぬ。貴方に我が角と背中を預けよう」

 まるで完全服従宣言を。

 した。

 フラカラ。


「そうなの?」

「「「アン?!」」」


 騎士の称号も持つ一角獣フラカラは、まるで子犬か生まれたての子馬のように頭を下げた。

 これから乙女を卒業する飼い主であり主人であるペネでも。

 今回のイベントの主催者であるカミーラでも。

 武功著しいミーナでもなく。


 食べ物屋の娘、アンの前に膝を落とした。


「まれびとーーー?」

 どうしよう?

 アンが、それほど困った様子もなく洋次に微笑む。


「どうしよう?」

 何十とシロアリ人を戦って屠った時はなんともなかったのに、全身電流を浴びたような衝撃とシロアリ人たちが掘った穴に真っ逆さまに落下してるドツボ感に苛まれていた。


「まあ。素敵。一角獣が自ら乙女にこうべを垂れる姿は修道院の書物でしか知りませんでした」

 ある意味、フラれたのに無邪気に感動しているカミーラ。


「フラ……カラ」

 予想外の展開に二の句を失ったペネ。


「あれれれ?」

「これは困ったわねぇ」

 温度差はあるけど、鳶に油揚げ奪われた体裁のカンコー母娘。


「洋次。私が卒倒したら支えて下さいませ」

 ツヤツヤのオデコに手を当てているメアリー。


「ねえーー、どうするのーー?」

 どうしましょう。




「それでは、改めて」

 一角獣には一角獣の都合がある。でも、ペネやカミーラ、ミーナは貴族。領土を持ちたくさんの人の上に立つ立場だ。


「これからも、今まで以上に」

 勝気なライジン娘、ミーナもちゃんとお嬢様として対応できる。


「これ以上は」

 三姉妹締結のきっかけをつくった張本人のペネ。しかも肝心の一角獣がよりによって平民の娘を『我が乙女』と跪いてカミーラやミーナに恥をかかせているからテンションは穴だらけのサラージュの大地なみだ。


「あら。これはこれで宜しくてよ」

 くすくすくす。

 無邪気な笑いを返すカミーラ。騒動の起爆剤になった洋次の主人でもあり、物理的には最大被害者でもある人物の朗らかな感想。


「これからシロアリ人。いえテミータの皆さんともっと仲良くしたいと希望します。この三姉妹の契りは、その種だと」

「ほほう」

 メアリーと洋次は、こめかみを押さえているんだけど。


「キコロー取締官」

「なかなか器の大きな次期頭首ではないか。余もあらん限りの知恵と人脈を駆使してテミータ公国を含めた四勢力の発展に寄与したき所存」

「まあ」

 言葉は古臭いんだけど。


「助けてくれる、と?」

「ああ。でも洋次、貴殿が要」

 肩が触れ合いそうなほど接近して、ポンと背中を叩く高級公務員。


「って私はニセモノの歯医者ですよ。満足な知識も技術も道具も」

「そろそろ寝ぼけるのは止め給え」

「あ、あのその身長で睨まれると怖いんですが」

 キコローは電柱みたいにひょろひょろタイプで身長は二メートル前後だ。いや、二メートル超えてるかも。


「案ずるな。貴殿とて存分に怖き男子おのこ。なにしろテミータの大戦争を引き起こしながら収め、四者同盟に導いたのだ」

「ですから、私はそんな大物ではないです」

「ふむ。確かにな」

 上げて下げてくるキコロー。


「では、三姉妹条約とテミータの友好。最恵待遇の利点をを早速実践しよう。ここは」

「通せんぼ?」

 踏切の遮断機のような細長いキコローの腕が洋次の前進を遮る。もっとも、進む予定もなかったけど。


「ここは余の領域テリトリー安心致せ。妹分のメアリーの主人に害する愚は冒さぬ」

「そう願います」

「さて」

 ここからは、貴族と中央政府高官との堅苦しい礼節をノッけた政治の世界が展開される。


「ねえねえまれびとーーー」

「ああ、アン。練乳の提供ご苦労様でした」

「うん。でねでねーーー」

 アンは洋次が治療したオオトカゲのイグの背中に乗っている。それはいい。


「ふん」

 アンとイグのペアに密着している存在だ。


「貴様が、とっとと余を治療していれば問題がなかったものを。危うく」

「あれーーくすぐったいよーー。おうまさーーん」

 アンに頬ずりするフラカラ。本来鞍にまたがる相手が所有するハズの騎士の称号を持つ一角獣だ。


「この可憐なる乙女にもしものことがあったら如何とするのだ」

「はいはい。それはもう申し訳」と。

「アンならだいじょーーぶ。ふたりともケンカしちゃダメ」

 ぺしぺし。

 アンは小さいけど働き者の手をしている。そのちょっと紅仄かな手がフラカラと洋次のおでこをビンタした。


「お、乙女」

「アン。これってさあ」

 フラカラが一方的に怒って洋次が謝る図式で、喧嘩かと問われたら違うと答えたい場面だ。


「だめなの。はい、なかなおり」

「あの?」

 洋次は、そりゃ戸惑う。アンの勘違いっぽい仲裁とフラカラから発する意味不明な感情のオーラに。


「わか、若者よ、洋次卿。すまなんだ」

 ゴメンなの古臭い言い方。


「こちらこそ」

 どうして、していないケンカのお詫びをしているのかナゾに包まれている洋次。


「じゃあじゃあ、まれびともおウマさんも、てつだってーーー」

「「手伝う?」」

「うん。サラージュのみんなや兵隊さんたちにありがとうのご飯。れんにゅうといっしょにつくってるから、はこんでーー」

「ああ。運ぶならウマの」

「余は城内には入らない。我が主の城ではない故な」

 ニュ○タイプの感応に似た電撃が洋次とフラカラ双方に走る。

 要は、面倒だからそれぞれに丸投げしたいのだ。


「じゃあアンと一緒にね」

 名誉貴族の稀人とケモナーでも正式な叙任騎士、敗北。



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