220 復興はあっという間
「さあさあ、キノコだけではありませんぞ」
「そのキノコなんだけど」
名も知らない、もう一度すれ違っても他のテミータと区別できないシロアリ人に、小玉のキャベツサイズのキノコを受け取る洋次。
「白いんだ」
太陽を浴びてなければウドだって白い。
「お、おお」
椎茸より歯ごたえがあって、パサついてない。
「これは、焼いたり煮た方が私好みだな」
「いけるいける」
また別のテミータ。だと思う。
「なんだい、これ?」
「にくにく。くう。まい」
なるほど囓ったキノコとは見た目も匂いも違う。
「そっか。でも君たちの食料だろ?」
「なかまなかま」
人語はお上手じゃないな。
「そこまで勧められるなら」
ここでガブりと頬張ってしまうのが、平和ボケのニホン人なんだろう。
「んーーー。蛋白で、その……?」
テミータは、〝にく〟と言った。
「でも、生肉や生焼けの肉でも、これまで経験して食していた動物と違うんだけど?」
首を捻りながら質問。
「これ。デカいの」
ガビン。
にこやかに──だと思うけど──テミータが差し出したのはミミズだった。
「ほぉジャイアントワームの肉など、余は死んでも口にしたくないがな」
ここに来ての異世界あるある。
どんだけ続くのか不明なほどのジャイアントシリーズが、ツイにミミズまで到達してしまったのだ。
「それ」
咳き込んでる洋次。
「それ先に言ってくださいよぉ」
「いや。忠告諫言の前に貴殿が貪っておった故」
しれっとしたご返事でした。
「うえーーーー」
「まあ昆虫食はチキュウでも検討されていると噂にしておるぞ。それに、テミータたちの好意だ。受け取るが善かろう」
「貴方はミミズ食べてないから」
「食わぬよ。でも貴殿、洋次は食べた。さすがは『モンスターの歯医者さん』だ」
「そんな」
「半人前だがな。でも、経緯は所々あったが立派にサラージュを救った」
「そうじゃないでしょう」
ぺたんとその場にしゃがみ込む。
「そもそも私が」
激しく首を振るキコロー。
「その件に関してはサラージュの実質的な領主であるカミーラが否定している。令嬢の御意志を尊重し給え、稀人」
「でも」
優しく。それは、これまでのキコロー取締官の態度としては恐ろしいほど優しく洋次の肩に手を添えた。
「壊すのも得意だが、建設も得意なのだよテミータのみならずシロアリ人たちは。宴がひと段落したら、サラージュの復興はあっという間だ」
シロアリ被害くらいしか知識にない洋次には意味不明だ。
「アリ塚、シロアリのタワーを、貴殿が住んでいる尖塔はシロアリの塚を利用したのを忘れたか」
「忘れてました」
「ふむ。そうであったか」
「襟正すのお好きですね」
本当、何万回整えるんだろう。
「カミーラが一切の不平を述べず相和するのが余程テミータの心を打ったようだ。結果稀人。其方の功績だ、誇れ」
「そう、なんですかね」
一応プレゼントのミミズ肉を捨てるわけにもいかない洋次は、ぼんやりと穴だらけのサラージュの地面を眺める。




