213 お城が燃えてるよ
「ええっと」
一匹、じゃない。一人のシロアリ人を頂点にシロアリのピラミッドが形成。
「目分量で標高二十メートル。決まったな」
「決まった?」
忘れていた。
キコロー取締官は政府高官だから、各部族亜人間の風習とか、詳しいのだ。
「あのテミータ。シロアリ人たちの頂点が新公王だ。確か」
「シロアリ人事も把握しているんですか?」
「国家や有力貴族のトップ十、二十くらいならばな。新公王はテミータ公国の騎士副団長、ノゥだ」
「あ、山が崩れる」
「シロアリ人古来の〝王〟の選出は終わったという事だ。そして案の定」
「案の定?」
ピラミッドの頂点に立った、真っ白なシロアリ人が洋次に近づく。
「稀人、そしてサラージュの方々。これより公国を担うノゥです」
「あっさり」
前公王の弔辞とかお構いなし。現実主義なのか、冷淡なのか。
「今回の騒動、お詫びしてもお詫びしきれませんが、宜しければテミータ公国はサラージュと最優先に友好関係を結びたいと希望します」
口調は丁寧だけど、そこは公爵、公王様。胸に手を添える拝礼や片膝をつく姿勢でもない。
「それは、しまった」
シロアリの王選挙を傍観して手と身体がお留守だった。
「カミーラ、そして家令補佐」
「おお。サラージュの支配者ですな」
生存確認や被害状況を領民やコチたちの〝風の便り〟で集めていたサラージュのトップ。
「まだ成人の儀式も儘ならず。でもサラージュの全責任は私にあります」
すっ。カミーラが凛として身構えている姿は、それはもう神々しいくらい頼もしく感じるし美しい。
「只今襲位した身、サラージュの復興を最大限協力する所存」
「感謝します。謹んで協力を受け入れます」
「それでは」
一旦振り返る新公王ノゥ。
「////うぃぃぴぃぃぃ//」
大の字。あるいはバンザイの姿勢をしながらよく通る声を張る。
号令だったんだろう。
新公王選挙の後は棒立ちだったテミータが仲間の死体を片付けたり、穴から出入りしたり、あるいは穴を塞ぎ始めた。
「もしも此度の暴挙をお許し頂けるなばば……」
洋次。モンスターの歯医者さんを自称する稀人、つまり異世界人の青年の肩がポンと叩かれる。
「これからのサラージュの政治はこれからのサラージュ当主に任せよう」
「そうですね」
カミーラとテミータ新公王ノゥ。これにコンラッドとバディを現在未来と組むハリス・ペンティンスカ。遅れてカンコー伯爵家夫人プラム。
青空&穴だらけの幹部会議が開催される。
「え? あれ?」
家屋を破戒されたサラージュ領民の避難所の整備のためなにかできないか。そんな洋次の目の前を一人のシロアリ人が横切る。
「これ、どこ?」
上手ではないけど、人語が通じるテミータ、シロアリ人だ。肩で担ぐ材木を指さした。六本持っているヒューマンだと腕と呼ぶ前足で。
「これは、囓られたりダメージがひどいから竃とかの燃料だな」
「ねん。りょ。わかた」
「じゃあ、厨房に。あ、厨房、わかるかな?」
「わから。ない。どこ?」
「ええっと?」
この段階でやっと洋次はアンが側にいないと気づいた。
「アン? アン?」
まだ。
まだ人的被害は──少なくても死亡は、だ。けが人はいる──報告されていない。それは、これまでだ。
「アン、アン!」
周囲をキョロキョロ展望する。大声を張り上げて、でも小さな料理人の姿を発見できない。
「アン、どこだ?」
「洋次」
ひんやりとした冷風が身体を冷やす。北風の精霊、バンシーが飛んできたんだ。
「お城で燃えてるよ」
「城? まさか!」
王国を形成、そして公爵とか準男爵がいるシロアリ人、テミータだ。ケモノなどは火を嫌うと油断していたんだ。
「バンシー。厨房は知ってるな?」
最近では洋次専門だけど、元々風魔法を得意としているメアリーにコチたちの風精霊はくっついていたんだ。
「先に行くね」
「頼む」
小鳥のようにバンシーが飛び、その後ろ姿を追尾する洋次。そして。
「もや。す」
材木を担いだシロアリ人が洋次のあとを追う。




