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210 キコロー取締官は、ほぼ全裸


「竜王陛下」

 シロアリ人の中でオルキア王国から爵位を与えられ唯一藩国、国内の自治国を認められた人物。テミータ公王のティネリだ。


『竜の王を名乗った覚えはない。だが、ティネリ。余も汝も長生きしすぎたな?』

 自分も老害に入れてしまったエンシェントドラゴン。


「はい」

『もうよかろう』

「仰せの通り」

「待って。次期国王候補が揃って死んで、現公王まで死んでしまったらテミータはどうなるんです?」

 ティネリの壁になるように前進した洋次。


「過大な損害を被りながらの配慮、つくづく感謝する。稀人」

 まるで鬼ごっこ。またティネリが洋次の前にはばかる。そして竜に拝礼する。


「なれど」

 胸に手を当てるポーズ、つまり拝礼はそのまま。でもシロアリの王。テミータ公王ティネリは深々と垂れていた頭をいくらかジャッキアップ。


『汝は汝の理想がある。それはいい。でも、もう終わりだ。そして最後の誇りだけは何人なんびとにもおかされることあたわず』

 竜が語り、ゆっくりと頷くティネリ公王。


「御意」

 超スローモーションで跪きから起立したシロアリ人たちの王。オルキアで、バナト大陸で唯一ヒューと同じ扱いを受ける王が立ち上がった。


「我が王国の果の果てに赴きます。後始末を託す我儘わがままをお許しあれ」

『左用か。安心致せ』

 襟首辺りをぽりっと掻く竜。

 そしてきっぱりと頭部を左右にするシロアリ人たちの王、公王陛下。


「いえ、ごゆるりと参られんことを。おさらばです」

『ティネリ。公国は安泰。約束しよう』

「身に余る光栄。御免」

『ふむ。ティネリの志、けがす真似は、この老いた竜が許さぬ』

 数人の。

 ティネリ公王を慕いたそうなシロアリ人たちは、竜の言葉のくさびで釘付けされた。

 ティネリ。前公王は独り地下の公国の奥津城に旅立った。

 結論として、餓死か放置致死の刑罰を公王が受けたのだ。



『これで終いだ。では、また会えるとしたら面白き事柄であるかな

「うわっぶ、分隊長」

 竜が残骸死骸の原野と化したサラージュから、一瞬で飛び去った。


「これが」

 これが、一連の騒動の結末。

 竜だか竜王が介入したシロアリ人たちの内戦の後始末。

 サラージュには、数えたくないシロアリ人たちのむくろと巨大竜巻で吹き飛ばされたようにフラットになった家屋の名残が残った。


 サラージュと各方面の義勇軍の犠牲者はナシ。

 一方、シロアリ人。戦死死亡者等など計測不能。


 家屋や畑地の損害の算定は、これからの作業。



「私は、どうしたらいいんだろう」

 異世界のバナトに転移して、そのままオルキア王国のサラージュの稀人になった。

 生活のため、第一第二サラージュ住民なエルフのメイドメアリーと吸血族の伯爵令嬢カミーラの依頼でモンスターの歯医者さんを自称した。これは稀人特典が既存の商売を侵食しないための配慮でもあり、カミーラが正式な伯爵を継承するための手段でもあった。

 吸血族でありながら、可愛らしい口に歯茎に牙のないカミーラは、自力で吸血行為が実行不可能。

 そのままだと成人として伯爵位を継げないからだ。


「こんなに大勢のシロアリを」

 等身大に拡大してもシロアリはシロアリだ。そんな意見もあるだろう。


「私は」

「洋次卿」

 白濁したシロアリ人たちの亡骸や身体の一部、体液が散乱しているサラージュの大地に呆然としている洋次に、新しい影が写る。


「私が願い貴方も願ったお仕事はなんですか?」

「それは」

 毅然。

 知らなかった。カミーラは、こんな厳しい表情もするんだと。


「乱戦に自己を忘れかけているならば教えて進ぜよう」

「あ?」

 忘れられているのは取締官あんたじゃないか。

 洋次が一旦サラージュ城を離れたとき、シロアリボールに包まれていたキコロー取締官が再登場した。


「生きていたんですか?」

「やれやれ。貴殿は取締官の強さを知らぬ模様」

 肩をすくめてみせるキコロー。ところで貴方、その服装は?


「取締官。ご無事で何よりですが」

 口元を広げた指で隠すメアリー。働き者でも白くて太くない指もエルフ顔も瞬間的に真っ赤に染まる。


「これはしたり」

「したりで纏めるんですか?」

 ありもしない襟。つまり首根っこをポリポリするキコロー取締官。


「乙女の面前の無作法をお許しくだされ。何しろテミータたちは静物よりも衣服着衣などが好みで、真っ先に衣服を食された結果」

 生きていたのは目出度いけど、キコロー取締官は、ほぼ全裸。

 違うな、お相撲取りのスタイルそっくりだ。


「それ?」

「はて。ニホンジンたる稀人が〝ふんどし〟を知らぬとは奇っ怪な」

「知りませんよ」

 さっきまでの暗鬱モードを忘れて呆気にとられている洋次。

 一方サラージュ令嬢の家令補佐も兼任しているメアリーはってーーと。


「コチ、フェーン、ゼピュロス。取締官卿の衣服を!」

「よし」「わかったよ」「めんどだなーー」

 メアリーの下知で城内に帰投する風の精霊たち。幼生体から少年体くらいの成長を遂げている。


「ふむ。混沌の渦にも職務を忘れぬとは天晴れであるぞ。メアリー」

「取締官。そのフンドシ一丁で威張っても威厳とか感じないですけど」

 そのまんま。



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